第4話 アリシア、爛れた生活を望む?

 わたしがしたかったこと……錬金術は便利そうで気になっているけれど、賢者の石になりたいわけではなかったような……。


『ミィシェリアから聞いているぞ』


 え、何をですか?

 ミィちゃんは女神様同士の会話で、わたしのことをなんて話しているのかな。かわいい? それともめんどうな子? 聞くのが怖いな……。


『お前は愛されたいのだろう?』


 お、おお……そういう話……ズバッときますね。

 わたし、今だって愛されていないわけじゃないですよ? たぶん……きっと? みんなやさしくしてくれるし、みんなわたしのことを好きでいてくれてるとは思うんですよー。


『だがお前がほしいのは恋人ではないのだろう?』


 いやいやいや、恋人ほしいですよ⁉

 めっちゃほしい!

 ハーレム作りたいです!


『ではさっさとハーレムを作ればいいではないか。人は金をばらまけばいくらでも集まると聞くぞ?』


 いやー、そういうのはちょっと……。

 なんかこう相思相愛というか、精神的なつながりを大切にしたいというか?

 金の切れ目が縁の切れ目的な関係ではなくて……。


『お前のスキルがあれば金が尽きる心配をする必要はないだろう。なんなら心も洗脳すればよいのではないか?』


 え、洗脳って……女神様ってそういう感じですか⁉

 いや……わたし的には、そういうのもちょっっっっと違うっていうかですねー。心の底からわたしのことを愛してくれる人とですね……。おっしゃる通り、おかげさまできっとこの先お金には困らないでしょうけど、それはスローライフを送るために使いたいっていうか。愛する人たちとどこか田舎に移り住んでのんびりと余生を過ごす、みたいな?


『それはお前の夢ではないよ』


 えっ? どういう意味ですか?


『それはお前がどこかで見た誰かの夢だ』


 誰かの夢……?

 でもわたしの夢です……よ?……たぶん?


 わたしは前世で不幸の中の不幸を極めて、何のしあわせも得られないまま死んで……だから、せっかくいただいたこの転生の命……今度こそ、しあわせいっぱいラッキーいっぱいの人生を送ってみたいって思ってて……。


『そうだな。それはお前の夢だろう』


 はいー。

 それでしあわせな人生って言ったら、友だちがいて、恋人がいて、たくさんの人がみーんな笑顔で……。


『だがもうその夢は叶っているんじゃないか?』


 その指摘に、背筋がぞわっとする感覚を覚える。


 わたしの夢って叶ってるの……?

 うーん。うーん。みんなやさしくて楽しい……。何でも話せる同じ転生人のロイスもいて……。たしかに毎日がとっても楽しい……。


 でもわたしのハーレムは?


『お前はハーレムを作ってどうするんだ? 男も女も集めて、爛れた生活をしたいのか?』


 爛れたってそんな……。


『そもそもお前は男が好きなのか? 女が好きなのか?』


 えっ……と。その質問はとっても困る……。前世の記憶と思考が混じってよくわからなくなってしまっていて……わたし自身混乱しているというか……どっ……ちも? その人によるというか? 好きになった人なら性別なんてどっちでも?


『全部疑問形だな。本当はお前、まだ恋が何かわからないんだろう?』


 鼻で笑われた⁉

 ちゃんとわかってますよー! 

 魂の結びつきが特別で、愛し愛されずっと一緒に……?


『違うだろ。生き物なら子を生すために寄り添うのがつがいだ』


 子! ちょっとまだそういう関係は早いっていうか……。


『子を生さないなら恋人もハーレムも不要だろう?』


 いえ……将来的にはそういうことも視野に入れつつですね……。そういう大人なことはもうちょっと大きくなってから考えてもいいのかなーって?


『いいや、違うな。お前がほしいのは友だよ』


 たしかにそれはそう、なんですけど……。そう、ですね……。わたしに今必要なのは、友だちなんだと思います。利害関係なく助け、助けられる関係。きっとロイス以外にも。

 わたし、友だちがほしいです!


『お前がハーレムを求めるのはただの憧れだよ。恋への憧れ。そして恋人がいる友人たちへの憧れの気持ちでしかない』


 ああっ! そうなのかもしれないけどっ! でもわたしだって恋人がほしいって思ってるのはホントでっ!


『「恋をしたい」なんて言っているうちはまだまだ早いということだ。そんな上品なことを頭で考えるよりも前に、行動に出るのが本能なんだよ。なんとしてでも相手を振り向かせたい。奪い取りたいといういわば生き物の本能。それが恋だよ』


 たしかソフィーさんも似たようなことを言っていましたね……。


 恋は落ちるもの。


 生き物の本能ですか……。

 スークル様は誰かと恋に落ちたりされたことがあるんですか?


『オレは女神で概念だからそういうものはない。しかし人に崇拝される女神として、お前たちのことは十分に理解しているよ。まあ恋については、それこそ愛の女神・ミィシェリアの領分だろうがね』


 ああ、たしかにそうですね!

 ミィちゃんに聞くと恋のことを教えてくれるのかな……。


 うーん。わたしのミィちゃんへの想いは恋じゃないのかな。こんなに好きなのに。ミィちゃんのことを考えるとほんわかほわほわな気持ちになるのになー。


『そうだな。女神のことを敬愛する気持ちと恋は、案外似ているのかもしれないな』


 と言いますと?


『お互いに求め合う関係ではあるからな。女神は信徒の信仰心によって強くなり、信徒は女神の寵愛によって強くなる』


 お互いに求め合う関係ですか……。それが恋。


『お前はミィシェリアが親身に話を聞いてくれて、やさしく甘やかしてくれるから好きになったんだろう?』


 え、うーん。そう、なのかもしれないですけど……なんかざっくりまとめられるとわたしがチョロく聞こえちゃうような……。


『事実は受け入れるんだな。お前はチョロい』


 うぅ……。

 で、でもでもミィちゃんのほうがもっとチョロいですからね⁉


『それは否定しない。あいつは女神の中でも最チョロ。最チョロの女神』


 最チョロの女神って初めて聞いた……。

 でもやっぱりミィちゃんがチョロいのは、女神様たちの中でも有名だったんだ♡ そういうかわいいところが好きっていうか、尊くて崇めていたいっていうか。


『ああそうか。オレはなぜ今まで気づかなかったんだ』


 スークル様が突然歩みを止める。


 どうしましたか?

 ミィちゃんのチョロさの話ですか?


『そう、ミィシェリアだよ。お前、羽根と身代わり護符を持っているだろう?』


 ミィちゃんの羽根!

 ちなみにマーちゃんとリンちゃんの羽根もありますよ!


『身代わり護符は?』


 あります。

 ミィちゃんから1つ預かっていて。

 

 わたしは羽根と身代わり護符をアイテム収納ボックスから取り出して見せる。


『それがあればこの空間にミィシェリアを呼び出せるかもしれない』


 ななな、なんですと⁉

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