第15話 アリシア、女神様に説教する

「いかがでしたでしょうか?」


 ソフィーさんのなんとなくな鼻歌をBGMに、わたしとエデンは即興ローラーシューズショーを演じきったのでした。


「最高だったぉ! アリシアたん、エデンたん、好き好きぉ♡」


 リンレー様から放たれる謎のピンクの光でわたしとエデンが包まれる。

 体の底から力がみなぎってくる⁉


 何これ、女神スキル⁉


「リンレー。合意なく女神の加護を与えるのは良くないの」


 と、マーちゃん。

 マーちゃんがリンレー様の隣にちょこんと座っていた。


「あれ? マーちゃんも来てたの⁉」


「せっかくじゃからの。ひさしぶりにリンレーと酒でも飲もうかと思っての」


 マーちゃんは赤ら顔でお猪口を持ち上げて見せてくる。

 早くもガンガンに飲んでいらっしゃいますね。お2人が楽しいならいいけどね!


「なー、アリシアの体は最高じゃな?」


「マーナヒリンはあいかわらずブレないぉ。あーしはおっきいのもちっちゃいのもかわいいと思うぉ。そっちのエデンたん。雪女の忘れ形見もかわいいぉ」


 あーこれ、完全に酔っ払いのトークだわ。関わっちゃダメなやつだわー。


「あ、それでさっきの女神の祝福というのは……」


「すっごく気に入ったから~、2人を信徒に迎えることにしたぉ♡」


 再び放たれる謎のピンクの光。

 迎えることにしたぉって!

 

「リンレー。信徒に迎えるにはきちんと合意を取るのじゃ」


「あー、えっと、正義の女神・リンレー様。ありがたきお言葉。アリシア=グリーン、謹んでお受けいたします」


「ボクも、そのありがとうございます。お受けいたします」


 わたしとエデンはリンレー様の前で跪き、信徒になることを宣言した。


「ほ~ら、合意したぉ。あーしは信徒が少ないからとってもうれしいぉ♡」


「それはリンレーがめったに神殿に顔を出さないからじゃ。それに信徒に厳しすぎて世間の評判が悪いからの」


「え~、あーし評判悪いんだぉ? かなぴ~」


 両手を顔の前に持っていき、しくしく泣きマネをしてみせる。

 んー、まあ、今の短い時間しか見てないけど、マナーがなってないだけですぐ排斥しようとするし、評判は良くないだろうね……。

 見た目からしてエッチっぽい女神様なのかと思ったら、厳格なマナー講師だもん。ちょっとギャップがなー。


「えっと、それで、さっきいただいた女神の加護は……?」


「あーしの加護は正義の加護だぉ。正しい心に基づいて行動する時、普段の3倍の力と勇気が湧いてくるぉ」


 えっ、何そのとんでもないぶっ壊れ加護……。正義の心しか持っていないわたしは常時発動しちゃうっ!


「アーちゃんはあいかわらず自己評価が高くてかわいいの」


 マーちゃん……それ、どういう意味ですか⁉

 わたしほど正義の人はいませんよねっ⁉


「エデンも加護もらえて良かったね」


「うん。戦闘に生かせそうなスキルでうれしい」


 エデンが無邪気に笑っている。

 きっとその笑顔は、自身が強くなりたいという気持ちからではないんだろうなというのが容易に想像できる。

 誰かを守りたい。その気持ちからエデンは強くなろうと願っている。

 なんて純粋で美しいの。守りたい、この笑顔!


「リンレー様……我も代々リンレー様の信徒なの……我にも加護ほしいなって思ってましゅ……」


 ロチェリスマインがリンレー様をちらちらと見ながら、そこはかとなく自身の存在を主張している。

 まあそうよね。急に現れたわたしたちに加護が与えられて、先祖代々リンレー様を祭ってきた自分たちが祝福されないのは納得いかないっていうのはわかる。


「リンレー様。ロチェリスマインも敬虔な信徒です。どうか寛大な御心を」


「おっけーだぉ。ロッチェもこっちくるぉ☆」


 リンレー様ってば軽い……。

 女神の加護ってこんなに振りまいて良いものなんですね。


「我らの気分で決めるものじゃからの。ピンとくるかこないか。加護を与えたいなと思ったら与えるだけなのじゃ」


 うーん。わかるようでわからない。

 わたしはたまたまだけど、ミィちゃん、マーちゃん、そしてリンレー様に女神の加護をいただいて……まあ、運が良いだけなのかな。


「アーちゃんは前世で苦労して、現世では運を求めたのじゃろ? その結果がこれなのじゃ。うれしいじゃろ?」


「うん、うれしい! わたし、ラッキーで良かったって思ってるよ!」


 難しいことはわからない。

 でもラッキーでしあわせな人生を送りたいって思ってるから、今が一番楽しいんだ!


「アーちゃんが楽しいなら、我も楽しいぞよ」


「楽しいぞよかー♡ いつもありがとね♡」


「なんかずるいぉ! あーしもアリシアたんと楽しくしたいぉ!」


 ロチェリスマインに女神の加護を与え終わったのか、梅酒のグラスを揺らしながらリンレー様が絡んでくる。


「アーちゃんは我のものと決まっておるからの。あっちにいくのじゃ」


「ちょっと~。あーしをのけ者にするなら、あーしの信徒たちが黙ってないぉ? マーナヒリンの神殿を取り囲んで火攻めにするぉ?」


「あー、それだ。それですよ、それ!」


 わたし、わかっちゃいましたよ。


「それってなんだぉ?」


「女神様を怒らせると信徒が集まってきて弾圧されるって噂。出所はリンレー様ですね? そういうのやめないと女神様全体の評判が下がってますよ……」


「なんだぉ? 女神のあーしに意見するのかぉ?」


「リンレー。アーちゃんは良かれと思って言ってくれておるのじゃ。信徒は部下ではないぞよ。良き理解者であり、良き友人。そして愛すべき子じゃ」


「ロリコンのマーナヒリンが良さげなこと言って説教してくるぉ! あーしのほうが正義の女神なのに許せないぉ!」


 リンレー様が梅酒のグラスを持っていない手と足をばたつかせて駄々をこねる。

 器用だねー。酔っぱらっているようでお酒は決してこぼさない! 冷静だー。


「でもロリコンは関係ないんじゃ……。わたしは、すべての女神様が人と妖精とその他すべての種族と良い関係を結び、一緒に発展していく未来が見たいなって思います。そこに恐怖や暴力がない世界があればいいなって」


「少なくともこの国の中においてはそれを実現したいものじゃの。他国との争いの際には一致団結できるように、我ら七神はそういう思いで汝らを導きたいのじゃ。リンレーもそうじゃろ?」


「あーしだって同じ思いだぉ。悔しいけど、アリシアたんの言葉には説得力があるぉ。正義と平等の名のもとに、愛を持って人々を導けるように考えていくぉ」


 リンレー様がグラスを高々と掲げ、宣言した。


「アリシアたんは政治や司法にも詳しいんだぉ。例のアレだったかぉ?」


「そうじゃの。アレだからの」


 アレって転生人のことですよね。

 伏せ方が雑過ぎて、みんな不振がって……いないですね。そもそもみんなわりと自由に飲んでいるから、わたしたちの話なんてぜんぜん聞いてなかった!

 ≪銀の風≫のメンバーは良い感じにピクシーたちと交流しているし、ソフィーさんは……ズッキーさんと意気投合……マッチョトークでもしているのかな。


「まあいいです。わたしはアレなんで、女神様方の酒の肴になるならいくらでも。あ、でもお店に来てお金を使っていただければ助かりまーす♡」


「アーちゃんはしっかりしているからの。そうじゃ。ミィシェリアも我も、アーちゃんと連絡を取りやすくするために、女神の羽根を与えておるぞよ」


 常時女神の加護が発動するし、すぐに通話できるから女神の羽根はとっても便利!


「あーしだけ仲間外れはやだぉ。アリシアたん、あーしの羽根も持っておくぉ」


 そう言って、リンレー様がやや黄色っぽく輝く羽根を押し付けてくる。


「ありがたきしあわせー」


 マーちゃんが強引に仕向けた気がするけど、リンレー様の羽根も手に入れちゃった♡


「それと、あーしのことは、リンちゃんって呼ぶぉ?」


「リンちゃん! とってもかわいい響きね♡」

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