第6話 アリシア、闘魂注入する
VIPのお客様のお相手は、ソフィーさんとマーチャン様のお気に入りの天使ちゃんたちに任せてーと。わたしは調理場の様子と1階のホールの様子も確認しないとね!
プロデューサーさんは大忙しなのだ!
「どうやってるー? 機械の調子はどうかしら?」
夜の間、ナゲットクンの機械はお休みさせているけれど、他の機械は稼働しっぱなしにしているのです。大盛況だから、製造し続けておかないと明日売るものが足りなくなってしまう恐れがありまして。
「はい。順調です。肉の裁断機は正常に動いています。油の温度調節も正常です。オーブンも正常に動作しています」
調理場の天使ちゃんたちはとってもまじめ。
時間ごとにしっかりとシフトを守って働いてくれている。
「報告ありがとう! サポートロボットの調子はどうかしら? ちゃんと役に立ってそう?」
重いものを運んだり、料理をサーブする補助のために、ホールの天使ちゃんたちに1人につき1体のサポートロボットをつけてみたのでした。個人認証させて自動追従するシステムだよー。高速で移動しても汁物をこぼさない重力制御搭載! キッチンから天使ちゃんが手で運ぶよりも事故がなくて安全!
「ええ、そちらも今のところとても順調のようです。ホール係の話によると、『丸っこくてかわいい』とお客様からも好評をいただいているようです」
でしょうでしょう♪ 皇帝ペンギンの皇ペンちゃんですよー。ローラーシューズでシューっと滑っていく姿がペンギンっぽかったので、外見もかわいらしくしてみたよ♪
ゆくゆくはグッズ化! とりあえず表のガチャガチャに皇ペンちゃんグッズを入れてみて世の反応を見てみるか……。
「お席が60分制になっていますから、料理の待ち時間を極力減らすことを心がけていきましょうね。注文したらサッと料理が出てくる。お食事に満足してすぐに帰っていただく。そして次のお客様をお迎えする。大変ですけど短い時間でお客様に満足していただけるように、しっかりとおもてなしをよろしくお願いします!」
「「YES、暴君幼女!」」
「おい、声を揃えて暴君幼女って呼ぶなっ! ホントに暴力振るうぞ! わたしの全力パンチはホントに痛いからなっ!」
こぶしを振り上げると、天使ちゃんたちが笑いながら散り散りになって逃げていく。
まったく、悪ふざけが過ぎるわ! 君たちのまかないは1品減らす!
さて、次はホールを確認してー。そのあとはいよいよローラーシューズショーだ!
でもやっぱり3人が気になるから、先に控室見ておこうかな。
* * *
応接室の隣の倉庫をチームドラゴン用の控室に改造させてもらっている。散らかっていたけれど、ちゃんと整理したらわりと広めのスペースが確保できて、今では倉庫の中でジャンプ以外ならわりと練習できちゃったりしているし。
「どう? 準備できてるー?」
扉を開けて中に入ると、いち早く反応したのはロイスだった。
「アリシア!」
「あら、ロイスもここにいたのね。みんなの調子はどう?」
わたしが問いかけると、ロイスが「見て」と言わんばかりに、3人のほうへ視線を向ける。
鏡の前でひたすらポージングをするエリオット。出番直前なんだから、そろそろ服着ろよ!
床に座って柔軟体操をしているセイヤー。体柔らかい。うん、準備良さそうね。
イスに座ったまま微動だにしないエデン。あれ? もしかして緊張してるの?
「見事にバラバラね……」
「そうなのよ。部屋に入った時はみんなで談笑してたのに、30分くらい前からみんな無口になって、それぞれ……」
まあ、そうか。みんなそれぞれ緊張してるんだね。プレオープンセレモニーの時はガヤガヤしている中でいきなり始めたから、無我夢中でやれただろうけど、今日はそうもいかないか。
「よーし、チームドラゴン集合! エリオットはいますぐ衣装を着なさい!」
大声で集合をかける。最終ミーティングだ!
いつものキビキビした動きではなく、少し重い足取りで3人が集まってくる。
「みんな緊張してるみたいね。なーに? そんなにプレッシャーかかってるの?」
「ええ、そうですね。今日はお金を払っていただいている舞台ですから、しっかりやらないといけないですし」
エデンが低いテンションでボソボソとつぶやく。その体は微妙に左右に揺れている。いや、あなた、ちょっと緊張しすぎでしょ。
「おい、エデン!」
なんだその顔はー!
喝だ!
思いっきりお尻にミドルキックを叩きこんでやる。パシーンという小気味いい音とともに、エデンがたたらを踏んでから振り返った。
「痛いです……。暴力反対……」
戦士がこれくらいのキックで涙目になってんじゃねー!
「何が暴力だ! 気合いだよ気合! 闘魂注入!『今日はお金を払っていただいているから』だあ? プレオープンセレモニーの時はお金をもらってないから適当にやってたのか⁉」
「違います、けど……」
「でしょ! 違うでしょ! いつだってどんな状況だって全力を尽くそうよ! 誰の前でも人数が多くても少なくてもやることは一緒だよ!」
「全力を……そう、ですね……」
そう言って顔を上げたエデンは、とても良い表情をしていた。
気合入ったな。
「エリオット、セイヤー。おまえたちも気合足りないか? 闘魂注入しとくか⁉」
「お願いします」「遠慮するっす」
「「えっ⁉」」
それぞれ異なる答えを口にして、エリオットとセイヤーがお互い顔を見合わせている。
「よーし、2人とも後ろを向いてそこに並べ!」
「え、自分は遠慮するっす……」
エリオットが及び腰になっているセイヤーを、無理やり引きずって立たせている。
おしおし、準備はいいな。って、ロイス⁉
「ロイスも……闘魂注入するの?」
ロイスも背中を向けてセイヤーの隣に立っていた。
「も、もちろんですわ! 私もチームドラゴンのメンバーよ!」
まあ、いいけど、手加減はできないし、泣いても知らないよ⁉
「OK。じゃあ全員歯を食いしばれー! 闘魂注入!」
連続で3発。見事にお尻を捉え、きれいな音を立ててミドルキックが決まる。
「暴君! 闘魂注入ありがとうございました!」
「マジで痛いっす……」
「いった~い♡」
ん、なんかやばいヤツいるな……。恍惚の表情を浮かべて、おかわりを求めているヤツが……いったんスルーしとこう。
「よし、気合が入ったなら最後、動きの確認をしておいて。わたしはホールの様子を見てくるから」
「「「「YES、暴君幼女!」」」」
おまえらもか……。もう知らないっ!
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