第4話 アリシア、ギャンブルの怖さをわからせる

「いらっしゃいませー♪ 龍神の館へようこそー」


 18時30分。

 予定通り夜営業開始。


 とは言っても、予定通りでない部分もあった。開店前からお店の前にたくさんの行列ができてしまい、急きょ整理券を配布することになってしまったわけで……。


 ローラーシューズショー見学用のチケットは席代をチャージ制に。

 お食事だけの席は60分制にしてもらった。あとは今日だけテラス席も開放して、そっちでも飲食を楽しめるように突貫工事!


「危なかったー。天使ちゃんたちが気づいてくれなかったら、また昼間の二の舞を踏むことになってたよ」


「ホントよね。でも夜のテラス席もなかなか乙なものね。アリシアの用意してくれたライト、ステキだわ~♡」


 ソフィーさんも喜んでくれていた。

 各テーブルにランタンを設置してお料理を上から照らすようにしてみましたー。必要以上にライトをつけないようにしたほうがいいよね。せっかくの屋外だし、星空も楽しめるようにね。


「それにしてもちょっと意外です」


 わたしはぼそりとつぶやく。


「どうしたの? 何かまた想定と違ったのかしら?」


「えーとですね。お客様の層が意外だなーと。これまでの傾向だと、失礼ですが、もうちょっと裕福な方々が多くお見えになるのかと思っていたので……」


「そうね。たしかに。こうしてみると昼間のお客様とそう変わらないかもしれないわ……。ご家族連れも多くみられるし。もしかしたら貴族の方々は様子見をされているのかもしれないわね」


 ソフィーさんが腕を組み、分析する。

 といっても、胸の筋肉がパンパンで、胸の下に手を添えるだけになっているのがちょっとかわいい。


「様子見ですかー。ガーランド伯爵のプロモーションに食いついたのは庶民の方が多いのですね。ガーランド伯爵の支持者はそっちに偏っているのかな?」


「あなた、するどいわね……。セドリックは一般の市民をとても大切にしているから、逆に近隣の貴族受けがあんまり良くないのよね。でも王宮とはうまくやっているから大丈夫だとは思うのだけれど、いつもハラハラしちゃうわ……」


 周りに聞こえないように配慮しているのか、ソフィーさんが小声でつぶやき、ため息をついた。

 政治の話かあ。あっちを立てればこっちが立たず。大人の世界は難しいですなー。


「うちのお店をうまいこと利用してほしいのだけれど、肝心の貴族が寄り付かなくなってしまうとその作戦も厳しくなるわね……」


 ソフィーさんが龍神の館を高級料理店にしている理由ってもしかして……?

 2人の仲を考えるとありえそうではある。でも、あえてそこには触れないでおこう。ソフィーさんが必要だと思ったらわたしにも話してくれるでしょう。


「あのね、ソフィーさん」


 わたしに任せなさーい。

 こんなこともあろうかとちゃんと考えてありまーす。


「わたし、作戦立ててますよ」


 イエス、サムズアップ!


「あらあら、作戦? アリシア先生のお話聞こうじゃないの♪」


 急に目を輝かせるソフィーさん。先生ってもう、おだてても木には登りませんよ。ブヒブヒ。


「貴族の方はー、だいたい暇してますよねー?」


「それは偏見……。でも庶民と比べるとそうかもしれないわね」


 苦笑しながら答えてくれる。

 まあもちろん政治のドロドロとか忙しいでしょうけど、汗水たらして働くってことはないですよねー。


「暇を持て余して、新しい遊びを探していると思うんですよねー」


「そう、かもしれないわね?」


「ええ、そうなんですよ! そして、みんなお金が好き!」


 わたしもお金が好き! あれ、わたし貴族様に向いてるんじゃない⁉ ナンチャッテ。


「そこで、2階のね、オープンをですよ、あえてー、遅らせたんですよ!」


「カジノ、だったかしら? 新しい遊び場を提供、くらいしか聞いていないのだけれど」


 まあちゃんと説明してなかったですからね。

 これからその作戦を伝えましょう!


「カジノはですね、お金が好き、そしてちょっと暇している貴族たちをターゲットにしています。そりゃもう、どんぴしゃりのド真ん中を撃ち抜くアミューズメント施設なのです!」


「アミューズメント?」


「ようは遊び場ですよ。新たな社交場を提供すると捉えて良いと思います」


「社交場ねえ」


 あら、首をひねっちゃって、懐疑的なご様子?

 だけど説明を聞いたら驚いちゃいますよ。これは画期的ですよー。でもくれぐれもソフィーさんはハマったりしないでね!


「自分の手持ちお金を賭けて、様々なゲームをしてもらうんです。同じテーブルのお客様同士で戦ったり、ディーラーと呼ばれるお店側のメンバーと戦ったり。アイツに勝った、負けた。お店に勝った、負けた。ゲーム自体の作戦や連係プレイもあったり、時には私情の憂さを晴らしたり。まあいろいろな楽しみ方ができるんです」


 基本的に広く浅くお客様からチップを徴収して、お店が勝つように調整できちゃうんですけどね♪


「賭け事には中毒性があるので、ハマった方は毎日のようにお越しいただけると思います。まあ貴族様がターゲットですから、それで破産、なんてことはないでしょうし、お店も儲かってお客様も新しい遊びや人脈を手に入れられる。どっちもハッピーな社交場ですよ♪」


 たぶんね。……破産、しないよね?


「話だけだと想像がつかないわね……。そんなゲームに貴族の方たちが夢中になったりするものかしら……」


 あらあら。ギャンブルの中毒性をご存じないのねー。この国にはそういう施設がなさそうだもんね。


 ではまず、初級編から。

 この現金が入ったカプセルが出るガチャガチャを引いてもらって、その楽しさと怖さを体感してもらいましょうかね。ウヒヒ。


「ソフィーさんにも理解していただけるように、ちょっとゲームをしましょう♪」


 ガチャガチャのカプセルが100個入った機械をドーンとね。


「この投入口に銀貨1枚を入れると、1回ゲームができる仕組みです」


「銀貨1枚? これはどういうゲームなのかしら?」


「ルール説明をしますね。よーく聞いてください」


「わかったわ……」


「このガチャガチャと呼ばれるゲーム機には常に100個のカプセルが入っています。ゲームは1回1銀貨でチャレンジできます。チャレンジ1回につき、必ず1個のカプセルがもらえます。中には1等から3等のカプセルがあって、1等のカプセルは1個だけです。でも見事引ければなんと金貨1枚が獲得できます」


「銀貨1枚で金貨1枚! それはすごいわね!」


 ソフィーさんがうれしそうに財布から銀貨を取り出す。

 いや待って待って。早いから。ちゃんと説明を聞いてね。


「2等のカプセルには銀貨5枚入っています。2等のカプセルは3個入っています。残りがすべて3等で銅貨10枚が入っています。カプセルの重さは中の金貨や銀貨を含めてすべて同じ重さに調整してあります。また、抽選確率は常に一定です」


 ちなみに、1金貨=100銀貨=10000銅貨のレートで国に管理されているよ。つまり1銀貨=100銅貨ってことだね。


「やってみてもいいのかしら?」


 話もそこそこに銀貨を握りしめて、そわそわしているソフィーさん。ちょっとかわいいね。


「もちろんどうぞー。当たった景品はソフィーさんの物です。でもゲームに使った銀貨はわたしのものですからね?」


「もちろんよ! 100回やれば金貨が私のもの♪」


 ではないんですよねー。わたしの説明聞いてました?



「なんでよ! 金貨でないじゃないの! 詐欺よ詐欺!」


 お財布がすっからかんになったソフィーさんが地団駄を踏んでいる。

 いや、まあここまで期待通りの破産劇を見せられると、おもしろいを通り越してこっちが怖くなっちゃうわ……。


「ソフィーさん、金貨は入ってますよ。じゃあ試しにわたしも引いてみましょうかー」


 銀貨を1枚取り出し、ガチャガチャを回す。


「よいしょっと。あ、1等当たっちゃいましたー♪ ラッキー♡」


 ね? 入ってたでしょ?


「ずるいわ! 次に金貨が出るってわかってたんでしょ!」


「それ言いがかりー。魔力制御で毎回かき混ぜてるから完全ランダム抽選ですよー。わたし、言いましたよね?『常に100個のカプセルが入っていて抽選確率は一定』って」


「つまりそれって、毎回カプセルが足されている?」


「そうですよー。1個引いたら1個補充される仕組みです」


 1等が出る確率は1%。2等は3%ですよー。


「アリシアが1等を引いたのは……」


「わたしがラッキーガールだからですかね♪」


 えっへっへ♡


「カジノって、こういうことなの……おそろしいわ」


 ソフィーさんが空になった財布を片手にがっくりと肩を落とした。


「これをいろいろなゲームで体感してもらおうってことですよー。まあガチャガチャは完全ランダムなのでやさしい部類です。ラッキーな人なら勝てる人もいるでしょう。でもディーラーが絡むカードゲームやルーレットゲームなんかは、こっちでいくらでも確率をいじれますからね。ディーラーの腕次第で、誰に勝たせるかも制御できちゃいますから♪」


「そんな、詐欺じゃないの……」


「詐欺じゃないですよー。エンターテインメントなので演出ですよ♡ アサシン系のスキルを持っている天使ちゃんを特別に教育中なので、カジノオープンはその上達具合によって日取りを決めていこうと思っています」


 カジノ楽しみだなー♪

 あ、このガチャガチャは銅貨3枚のレートに変更して、景品をちっちゃいフィギュアにでもしてお店の前に並べとこー。

 親方に頼んでなんか小物がでるようにしてもいいかも。そういえば、幽霊先輩元気かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る