第19話 アリシア、親方を遠隔操作で好き放題にする

「うぉ……こいつぁいきなり俺が履いても大丈夫なのか……? うほぉ」


 親方に新しいローラーシューズを仕立てて履かせてみた。でも一向に滑ろうとしない。テーブルの端っこをつかんだまま、産まれたての小鹿のようにプルプル震えている。


「大丈夫ですよー。魔力を充てんしなければただの靴ですから」


 魔力駆動だから、魔力を流さない限り車輪は回らない。だから転んだりもしないってわけ。


「親方も多少は魔力を扱えるんですよね?」


 魔力が0の人はさすがに想定されていない造りだからね。

 大なり小なり魔力があって制御ができる前提のアイテムにはなってしまう。魔力の蓄積はしておけるけれど、制御だけはその場でしてもらわないと止まれなかったら大変なことになってしまうから。


「それなら人並みってところだな」


「だったら大丈夫ですよ。魔力量が少ない場合には補助できるようにしてありますし、制御が危なっかしい人向けには補助輪的にもっと低速のリミッターもつけられますから」


 まだつけてないけど、販売用のローラーシューズにはそういうのも必要だろうとは思ってる。速度が出すぎて大事故になるのだけは避けないと。

 たくさんの人に使ってもらうなら、自動ブレーキシステムもほしいかなー。それとエアバッグも。やっぱりどんな場面でも、ローラーシューズを使ってケガをしないようにしてほしいし。


「さ、まずは滑るイメージを持って実践ですよ!」


 いつまでも小鹿になってないで、おれっちと湾岸を暴走しようぜ!


「イメージな……。俺は滑る。滑る。滑るぞー! いけー!」


 威勢だけはいいんだけど、体は何一つ動いていない。

 はよ滑れや。

 

「親方……。日が暮れちゃいますよ。早いところ料理店に案内してほしいんですけど」


 ダラダラしてるなら、背中にジェット噴射つけるよ?

 あーもうじれったいな。


「親方退場! 幽霊……ドレフィン先輩。ちょっと代わって」


「お、オレ、ですか?」


 静かに刺繍をしていたドレフィン先輩。

 急に呼びつけたらビクンってなったね。しかも敬語って……もしかして、わたし怖い?


「そう、オレちゃん。ちょっとビビってる親方の靴を脱がして、ローラーで滑ってみてくれませんか?」


 安全なところを親方に見せて、なんとか自力で滑れるようになってもらわないと。


 幽霊先輩が親方からローラーシューズを受け取り、足に装着する。


「すまん、ドレフィン……」


「少し大きいです」


「細かいことは気にしなーい。ちょっと滑るだけだから、靴紐しばってなんとかしてください」


 ホントはサイズ調整簡単だけど、目の前ではやりたくないの。


「いきます……」


 超ローテンションの掛け声とともに、幽霊先輩がなめらかに滑り出す。

 あんよが上手! あんよが上手!


「良いですよー。ドレフィン先輩ステキー! かっこいい!」


 わたしの合いの手に少し照れながらも、幽霊先輩が工房内をスイスイと滑っていく。初見でもなかなかどうして、うまく扱えるものだね。


「ちょっとスピード上げてー」


 わたしの指示通り、さっきよりも速度を上げて工房内を滑走する。速度調整も問題なさそう。


「はい、ここで止まって!」


 親方の前でピタリと止まる。


「完璧です! 幽霊先輩ありがとうございました!」


「これはとっても便利だね。幽霊先輩って何?」


 あ、やべ。

 心の声が漏れちゃった。


「えっと、あだ名、みたいな?」


 もしかして幽霊=ゴーストってわかってない感じ? ラッキー!


「あだ名か。へへ」


 幽霊先輩が鼻の下をこする。

 なんだ、うれしいのか。悪口だってバレなければどうということはない!


「ほら親方。初見の先輩でもまったく問題なく扱えましたよ。早く親方も滑ってみてください!」


 親方にローラーシューズを履かせる。


「おう……」


 弟子にできて親方にできないことがあったらまずいでしょ。さっさと覚悟を決めて滑る! 次ビビったらホントにジェット噴射で飛ばすからな!


「親方のー、ちょっといいとこ見てみたいー♪」


「わかったわかった! そんなに急かすなってんだ! 今行くから! うおおおおお!」


 親方が咆哮する。

 それから宣言通り、ほんのちょっぴり滑り出した。


 いや、ホントゆっくりだわ。あんたナメクジか!


「あんよが上手。あんよが上手♪」


 遅ぇぇぇぇ……。

 よし、ここは遠隔操作だ!


 親方のローラーシューズにわたしの魔力を送り込んで小さく爆発させる。

 ついでに制御権も奪い取り、自動運転開始!


「うあああああああああああああああああああああああああ」


 さながら絶叫マシーン!


 親方が大騒ぎするのを無視して、超高速で工房内をジグザグ走行させてみる。

 はい、そこでフライングシットスピン! バックアウトカウンターからトリプルアクセル! さらに最後は4回転ループ! 決まったー!


「親方、やりましたね! グランプリファイナル優勝ですよ!」


「な……に……」


 あ、気絶しちゃった。

 ちょっとやりすぎちゃったかな?


 しょうがないにゃあ。


 この気付け薬を嗅がせて、と。


「親方! ローラーシューズマスターしましたね! さあ、料理店にいきましょう!」


「あれ……俺は……今いったい何を?」


 親方が周りをキョロキョロ見回す。

 幽霊先輩は気配を消して目を伏せていた。


「さあ、早く!」


 いざ、高級料理店へ売り込み営業だ!


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第二章 アリシアと工房 編 ~完~



第三章 アリシアと料理店~プロデュース 編 へ続く


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ここまでお読みいただきありがとうございました。

ちょうど大みそかに第二章が終わりました。


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必要ならジャンピング土下寝をしに行きます~ウネウネ~。


それでは引き続き、第三章も読んでいただければうれしいです。


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来年もよろしくお願いします。

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