第4話 アリシア、異世界転生ボーナスを得る

「洗礼式、早く始めてくださいよー」


 ミィシェリア様が再びわたしの頭の上に手を置いたまま、特に何もせずに数分が経過していた。


「これで洗礼式を終わります。アリシア、あなたは女神ミィシェリアの名のもとに洗礼を受け、仮成人となりました。おめでとうございます」


「へ? 終わり? さっきみたいなぐわーって熱くなったり、なんか光がパーっとなったり、天井から天使が舞い降りてきたり、女神の祝福のキスとか……そういうのないんですか?」


「ありませんね。洗礼式はあなたの内側にある鍵を開けるだけですから、私から付与するものは何もありません」


 なんだーそれー。期待して損したー。演出弱いなー。ゲームだったらここでプレイやめてるよ?


「洗礼式って地味なのね……」


「洗礼式とは本来厳かに行うもの。地味でけっこうです。それよりも、ステータスを開くことができるようになっているので確認してみなさい」


 ミィシェリア様はわたしの頭から手を離す。

 おお、そっか。ステータス解放されてるんだ!


「えーと『システムコール:ステータス』オープン!」


 さっそく教わっていた呪文を唱えてみる。

 って、前世の記憶が蘇った今だからわかることだけど、システムコールって、なんかゲームのプログラムみたいね……。


 とか考えていると、目の前にステータス画面が広がって見えてくる。拡張空間ってやつ?


「おー! ホントに出た! ゲームみたい!」


「そうですね。あなたの前世の記憶ではこのような画面を日常的に見ていたようですから、馴染みがあるのでしょう。数値はどうですか?」


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アリシア=グリーン

種族:人族

Lv.10

HP:200

MP:100

STR≪筋力≫:2

VIT≪体力≫ :5

DEX≪器用≫:7

AGI≪敏捷≫:3

INT≪知力≫:7

LUK≪幸運≫:3

スキル:なし

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「正直めっちゃ弱い……気がします。全部1桁だし。感覚的には生きていくのがやっと、みたいな?」


 軽くショックだわー。異世界転生したら、数値がカンストしていて今すぐでも魔王が倒せるー、みたいな感じじゃないの?


 普通の10歳ならこんなもんでしょうね、って感じのステータスだよ。

 しいていえば、ちょっと頭が良くてちょっと手先が器用? うん、普通に自覚あるもん。サンスのバカよりは頭が良いし、口では負けない。ママの手伝いをしてるから、裁縫は得意だし手先は器用なほうだと思う。


 うーん。でもこれでは魔王は倒せない。


「洗礼を受けたばかりの仮成人は、みなさんそれくらいの数値ですよ。日常から訓練を行っていなければ、レベルはおおよそ年齢を重ねるごとに1レベル上がります。HPは20程度、MPは10程度。ですので、アリシアはごく平均的なステータスです。悲観することはありません」


「異世界から来たなら、もっとこう、なんかあるでしょう⁉ チートステータスで魔王と巨乳をワンパンしたいのー!」


「ワンパンって……。あなた、魔王と巨乳に何か恨みでもあるんですか?」


 ミィシェリア様の困り顔……なんかそそる。縛り上げて恐怖に震える姿をもっと見たい。そんでもって家に連れて帰って嫁にしたい。巨乳の嫁……ぐへへへへ。


「笑顔が気持ち悪……10歳の女の子がしていい表情ではありませんよ。気をつけてください」


「あー今いたいけな少女に向かって笑顔が気持ち悪いって言ったー! ショックー。PTSDになりそー。あーあ、ミィシェリア様ってそういうこと言うんだ……宗旨替えしよう……やっぱりスークル様のところに行ってチート能力もらおうかな。そうしよー。はーい、お世話になりました!」


 ミィシェリア様に背中を向けて歩き出す。

 スークル様も美人だといいなー。嫁に来てくれないかなー。


「ちょっと待ちなさい! そんな勝手なこと! よりにもよってあの筋肉ゴリラのところになんて!」


 筋肉ゴリラ? スークル様、マジ?

 戦いの女神だから鍛えまくってるのかな? 筋肉ゴリラは嫁には無理か。しかたない、わたしが嫁になるほうでいくかー。


「まだステータスに関する説明は終わっていませんよ。嫁の話は忘れて、いったん落ち着きなさい。今表示されているのが現世でのあなたのステータスです」


「と言いますと?」


 ミィシェリア様のほうをちらりと振り返る。

 もしかして、何かうまい話でもありますかね?


「そのステータスに、前世で獲得した経験がポイント換算されて与えらえることになっています」


「おお! やった! 異世界転生ボーナスだ!」


 なーんだ。もったいぶってさー。性格悪いよー? そういうことは早く言ってよね。

 勝ったな! これで無双できる! ガッハッハ!


「無双できるかは知りませんけれど……。あなたが前世で亡くなった年齢は21歳でしたね。世界情勢はおおむね平和。ということは、標準換算で年5ポイントとして、105ポイントを付与いたしましょう」


 ミィシェリア様がわたしに向かって手をかざそうとしてくる。

 平和⁉ 標準⁉


「ちょちょちょ、ちょっと待ったー!」


 このまま進めてなるものか!

 待ってろ! わたしの異世界チート生活!

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