第10話 黄金の美少女

 いよいよ、精子A、つまりスペルマ大王二世の、出陣時だ。




 その相手は、スペルマ総統、ただ一匹。




 これが、事実上の、最終決戦なのだ。もはや、逃げる事は、できない。




 スペルマ総統と、スペルマ大王二世は、互いに距離を縮めながら、まるで、ボクシングで言う、ジャブのような、尾っぽの攻撃を繰り返していた。




 互いの距離を確かめあっているようだ。




 次に、二匹の大きな精子同士が、フェンシングの打ち合いのように、尾っぽを、フェンシングのサーベルのように、打ち合いを、始めた。




 いよいよ、本格的な戦いの開始である。しかし、既に、この時点で、精子A、つまりスペルマ大王二世は、その体格が、スペルマ総統より、約2割以上も大きくなっておれり、特に、尾っぽの長さは、スペルマ総統よりも3割以上の長さを誇っていたのだ。




 このままでの戦いであっても、スペルマ大王二世は、きっと、勝てるだろう。




 しかし、きっとでは駄目なのである。




 必ず、勝てるワザを繰り出さ無ければならないのである。




 で、どう攻撃するのか!




 その時、スペルマ大王二世の心の中に、新たなワザが浮かんだのだ。それは、あのZ大学院生の、明智美桜が、テレパシーで送ってくれた、あの必殺ワザでは無かったのか?




『スペルマ鞭毛(べんもう)十文字攻撃』だ。




 これが、急に、スペルマ大王二世の心の中に浮かんで来たのだ!!!




 これだ、これを使うしか、道は無い。




 そう決めると、フェンシングのような打ち合いの一瞬の合間に、この、必殺ワザを決めた。あっという間に、自分の長い尾っぽを、スペルマ総統の体に、十文字で縛り上げたのだ。


 新聞紙の束を廃品回収に出す時に、紙ヒモで十文字で縛るようなイメージだ。




 で、精一杯の全力を込める。




「何のこれしき……」と、踏ん張っていた、スペルマ総統の体は、遂に、4分割された。勝負は付いたのである。




 バラバラになって、洞窟内に、スペルマ総統の体は沈んで行ったのだ。




 この隙に、あの黄金に輝く物体へ向けて、再び、猛烈に泳ぎ始めた。あの物体に辿り着く事が、どう言う意味合いを持つのかを、教示してくれる初代のスペルマ大王は、既にいない。




 自分で、確かめるしか無いのである。




◆ ◆ ◆




「田中先生、パターン:ゴールドです!!!」




「いよいよ、辿り着くのか!」と、田中教授も、興味津々で液晶画面に食らい付く。



 いよいよ、最終段階に、突入だ。




「見よ、美桜ちゃんよ!!!」と、田中教授が叫ぶ。




 何と、精子A、いや、スペルマ大王二世の前に、黄金の衣を着た、明智美桜似の美少女のアバターが現れたのだ。正確に言えば、そう言う画像が、液晶画面上に表示されたと言うべきか?




 そして、彼女は言った。




「待っていましたよ。さあ、この中に、お入りなさい」と、その黄金の美少女が言葉を発した。




 黄金のガウンを捲まくると、黄金に輝く裸身が眩しい。まるで、ミロのビーナスのような均整のとれた、アバター上の画面だ。




「先生、これは、生物学上の合体、いわゆる受精でしょうか?」




「私は、勿論、そう思っている。どうせ、この一連の画面や音声は、ハードウエアに録画されている。ここは、一旦、お互いに休憩して、明日、再度、検討しようでは無いか?」




 確かに、二人とも、ほぼ丸一日、このAIの画像と、音声に縛られている。




 これ以上は、お互いの体にも、影響がある。




 そこで、普通着に着替えて、一旦、Z大学の研究室から帰る事で了解した。スパコン「エベレスト」の電源は、入れたままだが、これも、従来のスパコンのように、大量の電力を消費しないので、火災の心配も、ほとんど無いのだ。


 ただ、田中教授は、さすがに、バックアップだけは、取っておいた。一瞬の内にデータは、コピーされた。




 これで、お互いに、安心して帰宅できる。




 万一に備えて、お互い、研究室入室用のICカードも、持っているので、事後の心配は、何も無い。




 今日は、自分のマンションで、冷凍食品をチンして食べて、友人の結婚式の時に貰った、ブランデーをロックにして、飲んで寝てしまおう。




 先ずは、寝て、疲れを取る事が、先決だ。




 で、自分のマンションで軽くシャワーを浴びて、そのまま、明智美桜は寝入ったのだが……。




 だが、寝ている途中、夢の中で、大きな声を聞いたように思った。




「明智美桜よ、あのアバターは、インチキだ!!!」




 と、そう、夢の中で、天啓のように、大きな声が、聞こえたような気がした。勿論、夢の中で聞いただけの声で、そのまま、眠り続けたのだが……。  






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