《クリスマス記念番外編》女神が連れて来た天使

《注意⚠️》


本編とは何ら関係のない番外編です。

ご注意下さいm(_ _)m


クリスマス記念番外編、主役はまさかのベーカーです(笑)


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「大変だ! ユージーン坊ちゃまの奥様がこちらに来られるそうだぞ!!」

「まぁ大変! 早く歓迎の準備をしないと」

「奥様だけ? 坊ちゃまは来られないのかしら?」


 ここは、ハミルトン伯爵領の領主の邸。


 家令のマーカスさんから『ユージーン様の奥様が3日後に領地に来られる』という知らせがもたらされ、邸は一気に沸き立った。


 3日後というのはあまりに急だが、邸のみんなはいつ『坊ちゃま』が帰って来てもいい様に準備しているから大丈夫なのだろう。


 俺は、1年程前に親父からここのコック長の座を受け継いだ。


 まぁ、コック長っていっても、俺の他に気心の知れたコックが数人いるだけの小さな職場だ。


 伯爵様のお邸で働いてるなんてこの上もない名誉だが、肝心の伯爵様が帰って来なければ使用人だけののんびりした物なのだ。


 お陰で俺は大好きな料理に没頭出来て、新作レシピの開発も順調。

 お給料もいいし、休みもしっかり取れるし、いい職場だなぁ、なんて思っていたら奥様が来るだって!??


 大変だ、奥様の食の好みなんて何も分からないぞ!?


 とりあえずこの中で唯一奥様と面識があるマーカスさんにリサーチしたのだが、マーカスさんも奥様については詳しく知らないらしい。


 とりあえず、『食べ物の好き嫌いは無く何でも美味しく召し上がって下さる』という王都の伯爵邸でコック長をしているハリスさんからの言伝ことづてはあったけど、奥様って確か公爵家のご令嬢なんだろ?

 

 何でも美味しく、なんて事ある??


 と、とにかく、ここで俺が失敗したら親父の面子も潰しかねない。


 初日のディナーは親父直伝のビーフシチューに……、いや待てよ、肉類は好んで食べない令嬢もいると聞いた事があるぞ。

 とりあえずホワイトソースを仕込んでおいて、奥様が到着されてから白身魚でも鶏肉でもいける様に下準備をしておくか……。いや、それとも……。




 3日間、大いに頭を悩ませた問題は、到着してすぐの奥様の言葉で吹き飛んだ。



「まぁ嬉しいわ! 私、鶏肉もお魚も大好きよ」



 えー、気さくぅー……。



「え? 食べられない物? ……そうね、お肉が生で出て来たら流石に食べられないかしら?」



 マーカスさんが奥様に、何か食べられない物はないかと尋ねると、奥様は頬に手を当てて小首を傾げるとこう答えた。



 いや、伯爵夫人が生肉を出されるシチュエーションなんてある?

 ていうか、本当に何でも美味しく食べてくれそうだな!?



 馬車から降り立った奥様は、何と金色の髪をした、女神の様に美しい方だった。

 伯爵夫人というにはまだ若過ぎるその姿は、可憐なご令嬢と言った方がしっくり来る。


 使用人の紹介は夕食の前にまとめてすると聞いていたけど、俺に代わってメニューについて聞いてくれると言っていたマーカスさんと奥様の会話が気になって、ついコソコソと覗きに来てしまった。


 覗き見なんて、当然褒められた行為では無い。鶏肉も魚も大好きなんだと分かったし、早くここから退散しよう。


 奥様達にバレないタイミングを探っていると、奥様の後ろに控えていた侍女の1人、ふわふわの栗色の髪をおさげに結んだ女の子がこちらに気付いた。


 しまった! バレ…………


 不思議そうにこちらを見た女の子と、パチッと目が合う。

 その瞬間、俺の脳天から足の指先まで雷に打たれたかの様な衝撃が走り抜けた。


 


 か、か、か、可愛いーーー!!!!




 料理一筋21年。

 男ベーカー遅咲きの初恋である。




 しかし、これが苦難の道のりの始まりだった。


 この天使の様に可愛いマリーという少女、実は中々に天然小悪魔だったのだ。



「ベーカー! 街に行ったお土産に、アップルパイ買って来たよ!」

「ベーカー! トムさんのお店のチョコレートケーキは最高ね」

「ベーカー、いつ行っても閉まってる飴細工のお店があるの……」



 マリーの実家の男爵領で食べられている『モチモチパン』を再現出来ないかと持ちかけられたのをきっかけに、邸の中では比較的歳の近い俺とマリーは直ぐに打ち解ける事が出来た。


 マリーに笑顔で名前を呼ばれるとそれだけで天にも昇る気持ちになるのだが、やっぱり一番嬉しいのは、何と言っても俺の作った料理を食べてマリーが幸せそうな笑顔を見せてくれる時だった。



 ああ、俺、料理出来て良かった……!

 ありがとう、親父!!



 しかしマリーは俺が思っている以上に行動派の食いしん坊で、色々な所で次々に美味しい物を見つけて来る。


 自分でも大概だとは思うのだが、あれが美味しい、これが美味しい……と目を輝かせて話しているマリーを見ると、『自分がもっと美味しく作って食べさせたい』と思ってしまう。


 トムさんのチョコレートケーキを食べて蕩けそうな顔をしていた時なんて、本気で悔しくて3日徹夜してフォンダンショコラを極めてしまった。


 ていうか、あの蕩けそうな顔だけはやめてマジで。

 他の男に見せないで。


 ……そんな事言う権利、俺に無いのは分かってるんだけどさ。


 だから、俺は料理を作る。



 飴細工が中々買えないと嘆いていたマリーの為に、飴細工の研究もした。

 流石に細工の面では本職のトビーには敵わないけど、味は絶対勝っている。


 何とか可愛く見える形にまでなったウサギの飴細工をプレゼントしたら、マリーは満面の笑顔で喜んでくれた。天使。



 伯爵様が領地へ帰って来られて、夜会の準備だか何だかでみんな凄く忙しそうになったけど、やっぱり俺には料理しか出来ない。


 自分の無力さを噛み締めていたら、マリーに『みんなベーカーの美味しいご飯のお陰で頑張れてるんだよ! こういうのは適材適所なの』と励まされれた。天使。


 マリー曰く、アナスタシア奥様の受け売りなんだそうだけど、俺にはマリーの言葉として染み込んだ。




 夜会の為に、アナスタシア奥様と伯爵様が王都にお戻りになった。

 当然マリーも一緒だ。


 邸の中が一気にガランとして、他のみんなも寂しそうに見える。

 普段は私情を見せないマーカスさんも、何だかショボショボしていた。マーカスさんは、女神の連れて来た天使の片割れと絶賛交際中なのだ。羨ましい。



 マリーがいない間も、モチモチパンとモチモチドーナツの改良を一人黙々とこなしていく。


 邸のみんなにも、試食して貰いに行く街のみんなにも


『一途なもんだねぇ』


 と感心されるが、当然これが『料理に一途』って意味ではない事位は分かっている。

 分かってないのは恐らく本人マリーとアナスタシア奥様位の物だ。




「聞いてベーカー! アナスタシア奥様ったら、伯爵様はあんなにデレデレなのに、『旦那様が自分の事を好きかどうかは分からない』って言うのよ!?」


 王都から戻って来たマリーが、フンスと息を荒くしながらそんな事を言うものだから、思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。


「側から見れば、伯爵様が奥様を好きなのなんて丸わかりなのに、自分の事となると分からないものなのかしら!?」



 ……そうなんじゃないかなぁ…………。



 チラッと横を見れば、マリーが『はいっ、ベーカーお土産!』と良い笑顔で持って来てくれた《マリー特選王都の美味しい物&流行りの物》が山と積まれている。



 ああ、今日も俺の天使は最高に可愛い小悪魔だ。


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


皆さま、メリークリスマス!!


番外編もお読み頂きありがとうございます!

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