第81話 私のドレス
「こ、公爵様!!」
従者が慌てて公爵に駆け寄り抱え起すと、何が起こったのかも分からず呆然と私を見ていた公爵がハッと我にかえった。
「貴様……自分が何をしたのか分かっているのか……?」
ようやく自分が投げ飛ばされたという事実に気付いた公爵が、憤怒の形相でユラリと立ち上がる。
激しくデジャヴを感じる光景だ。今度こそ埋めるか!?
「こんな事をしてただでは済まさんぞ! もはやお前一人の問題ではない。ハミルトン伯爵家の責任も追求してやる!!」
唾を撒き散らす様に喚く公爵に、いつもの威厳は全く無く、いっそ哀れにさえ見えてくる。
私は仕舞っていた扇子を取り出して広げると、顔の半分を隠して上品に微笑んだ。
「あら嫌ですわ、お義父様。一体何の責任を追求なさるのかしら? まさか、嫁に出した義娘に投げ飛ばされました……とでも公に訴えるおつもり?」
そう言ってコロコロと笑う。
「それに、私が問題行動を起こせば起こすほど、ハミルトン伯爵家は被害者になりますのよ? 『とんでもない嫁を押し付けられた』と言って私を返却すれば良いだけの事ですもの」
「断固返さんぞ!!」
うん、旦那様。お気持ちは嬉しいですが、今は黙ろうか。
「……ぐぅ……ぅ……」
悔しそうに唸る公爵。
グゥの音も出ない程に言い負かしてやりたかったのに、ぐぅは言えたか。残念だ。
『アナ! アナ!』
『見つけたよクリスティーナ! 2階!』
『やっぱりドレスもクリスティーナが持ってた!』
部屋の空気が一応の決着を見せた所で、フォスとクンツとカイヤが応接室に飛び込んで来た。
精霊達には、私達が公爵と話をしている間にクリスティーナとドレスを探して貰っていたのだ。
『アナ急いで! ドレスが大変!』
ドレスが!?
「お義兄様、クリスティーナの部屋に案内して下さい! 私のドレスが!!」
急いで応接室を飛び出そうとした私に、旦那様とお義兄様も続く。
「待て! クリスティーナに何をする気だ!?」
焦って私達を追いかけようとした公爵がツルンッと滑った。見ればクンツが公爵の頭の上で何やらピカピカさせている。
『ここは僕に任せてー!』
バランスを崩して転んだ公爵は、クンツを頭に乗せたまま、立ち上がる事も出来ずに四つん這いでツルツル回っていた。恐らく何らかの力を発動させているのだろうが、時折頭の上がピカピカ光るのがシュールさに拍車をかけている。
お、面白過ぎる……! けど、こんなもん見てる場合じゃない!!
「ありがとう、クンツ! ここは任せたわ!」
応接室を飛び出した私は、フォスとカイヤの後ろに続いて階段を駆け上がる。
「ねぇ、大変って、ドレスはどうなったの!?」
『ドレス自体は今の所は無事だよ!』
『でも、あれ見たらアナはショック受けちゃうかも……』
走りながら聞く私に、若干気まずげに2人が答える。
そんな!
クリスティーナの性格上、ドレスを破ったり燃やしたりの破壊行動をとるなら、絶対私の目の前でやると思ったのに……。
既に何かされてしまったのだろうか?
階段を登り切り踊り場を曲がった所で、廊下の向こう側からユラリユラリと人影が近付いて来る事に気が付いた。
——クリスティーナ!
フワリと揺れる光沢のある生地。
徐々に緑が濃くなってゆく完璧なグラデーションの繊細な刺繍。贅沢にあしらわれた上質なレースに、キラキラ輝く宝石の粉。
クリスティーナが身に纏っているのは、紛れもなく私のドレスだった。
…………
なんっっっで、着るかな!!??
そりゃショック受けるわ!
嫌がらせとして的確過ぎる。
燃やされたり破かれたりしていないだけ良かったのかも知れないが、自分の大切な物を汚された様で非常に悔しい。
みんなが私の為に作ってくれた
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