第63話 交錯する人と想い

「次の悲劇、ですか?」


「ああ。アルフレッドお祖父様には幼い頃からの婚約者がいた。今は大分減ったけれど、この頃はまだ幼い内に本人の意思とは関係無く結ばれる婚約が多かったんだ。それが、ドロテアお祖母様」


 私は頷いて話を聞く。


「アルフレッドお祖父様は優しい人だったから、家に決められた婚約者であってもドロテアお祖母様の事を大切にしていた。ドロテアお祖母様にとってはそれが当たり前になってしまったんだろうね、エドアルド殿が生まれて、アルフレッドお祖父様が自分より弟を優先させる様になったのが許せなかったんだ」


 おおう、そこは許してやってよドロテアさんとやら。


 私にとっては伯母様、になるのかな? もしくは義お祖母様か。……ややこしいな。


「結婚すれば、子を授かれば、その子が生まれれば……きっとアルフレッドお祖父様は自分の所へ戻って来る。そう信じてドロテアお祖母様は子を産んだけど、そうはならなかった。あ、ちなみにこの時生まれたのが私達の父上だよ」


 自分の父親の事、すごいついでみたいに言うなぁ。


 薄々感じていたけど、もしかしてアレクサンダーお義兄様も公爵ちちおやとの関係があまり良くないのでは……


「父上が生まれても、アルフレッドお祖父様はエドアルド殿を可愛がるのを止めなかった。お祖父様が我が子より弟を優先していたのか、お祖母様が自分達に愛情を向けて欲しいと執着していたのか……そこら辺は当事者じゃないと分からないけどね。ただ、父上にとってはエドアルド殿は、自分達から父親の愛情を奪った憎むべき相手なんだよ」


 ……やりきれない話だ。

 

 正直、私の知る今の公爵は育ち切った偉そうなおっさんなので、今の話を聞いても『だまれファザコン!』としか思わないのだが、父親の愛情を求めていた幼い頃の公爵を思えば少し胸が痛む。


 かと言って、お父さんだってアルフレッド伯父様だけが唯一の味方だったのだ。

 幼い身ではそこの愛情に縋るしかなかっただろう。


 ……これやっぱり、私の爺さんである先々代の公爵が一番悪いのでは? いやまぁ、奥さんなくしたのは可哀想だけどさ……。うーん。


「アルフレッド伯父様は今はどうされているのですか? 退位されて領地に戻られたと聞いたのですが」

「うん、領地にいるよ。私も帰国の際に公爵領に寄ったからお会いして来た。お祖父様も、曽祖父様もお元気そうだったよ」


 爺さん生きとんかい!!


 これは、いつかひとこと物申させて頂かなければ。


「あの、私もアルフレッド伯父様にお会いしてみたいのです。お義兄様、お取次お願いできますか?」

「うん、いいよ」


 軽っっっ!! 


 いや、姪が伯父に会いたいって言ってるだけなんだから、これが普通なのか? 何かよく分からなくなって来たな。貴族社会は複雑怪奇だ。


 ともかく、これで伯父様に会う目処はついた。お父さんの事も分かったし、次はお母さんだ。


「次は、母の事について尋ねても良いですか? 以前、クリスティーナが母のことを『辺境伯の遠縁』『一代男爵の娘』と言っていたのですが、私は母の素性を全く知らなくて……。公爵家の方が何か情報をお持ちなのではないかと思ったのです」


 お義兄様は頷きながら私の話を聞き、少し考えると口を開いた。


「私が知っているのは、アナスタシアの母君とエドアルド殿は領地で出会ったって事位かな……。申し訳ないんだけど、その辺は恐らくクリスティーナの方が詳しいんだろう。父上はクリスティーナに聞かれれば何でも教えてしまうからね」


 そう言ってお義兄様は苦笑いをする。

 確かに公爵はクリスティーナに激甘だ。


「私の母は、公爵領で暮らしていたのですか?」

「いや、ハミルトン伯爵領だよ」


 お母さんが、伯爵領に!?


 私が驚いて旦那様を見ると、旦那様もまた驚いた顔をして私を見ていた。


「アナスタシアの母君が辺境伯の遠縁だと言うのが本当なら、ジーンのお祖母様の縁者なのではないか? 確か、ジーンのお祖母様は辺境伯家から嫁いで来られたのだろう?」


 これまた驚きの情報だ。何だかここに来ての奇妙な符号が気持ち悪い。


「ああ、確かにナジェンダお祖母様は辺境伯家の出だ。以前アナから母君が辺境伯家の遠縁だと聞いた時に、少し引っかかってはいたのだが……」


 何かが繋がりそうで繋がらない。手掛かりが得られた様でいて、結局何も分からない。


 他に、何か他にお義兄様が知ってそうな事は———



 私が焦って考えをまとめていると、扉が


 トントントン、ガチャッと開いた。


 こちらの返事を待たずに扉を開けるなんてあり得ない。

 

 ———不審者!??


 そう思い、咄嗟に私が身構えると、お義兄様は立ち上がり、旦那様は私の前に身体を滑り込ませた。


 そんな緊張感漂う部屋の中に飄々と現れたのは……



「おや? 姿が見えないと思ったらこんな所にいたのかい?」



 胡散臭い笑顔を湛えた、ある意味不審者と言えなくもない人物だった。



 自国の王太子に対して大分不敬な考えだけど、ね。

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