第4話 お金持ちな伯爵家⑴
次の日の朝、いつもより遅くまで寝てしまった私は控えめなノックの音で目を覚ました。
はっ! こんな状況下だというのにうっかり熟睡して寝坊してしまったわ!
やっぱりフカフカベッドは油断出来ないわね……!!
流石ハミルトン伯爵家。見る物使う物みんな最高級品に違いない。
私がベッドの中で夢見心地になっていると、再度遠慮がちなノックの音が聞こえた。
「奥様? お身体を清めるお湯などお持ちしましたが、お目覚めですか?」
そうだった。私はここの奥様で、しかも新婚ほやほやなんだったわ。
「ありがとう、起きたわ」
私はベッドに潜り込むと声だけで返事をした。
「入って頂戴」
失礼致します、と声がしてドアが開く。
声からして昨日カモミールティーの準備をしてくれた侍女だと思う。
短い時間ながらも彼女からは敵意は感じず、逆にこちらを気遣ってくれている様子だったのを思い出してホッとした。
昨日からずっと世話をしてくれている所を見ると、彼女が私の専属侍女になるのかもしれない。
「奥様、お身体はいかがですか? 宜しければお身体を清めさせて頂きます」
おぉ……そうだった。お貴族様は自分の体も自分で拭きやしないんだった……。
一応公爵家で受けた教育の所為で貴族の様に振る舞う事に抵抗は無くなったのだが、今日はマズイ。色々とね、ほら、致してないのがバレちゃうから……。
「ありがとう、でも今日は自分でするわ。その……恥ずかしいの。サイドテーブルの上に洗面器とタオルを置いておいてくれるかしら?」
侍女の戸惑う様子が気配で伝わってくるが、主人の言いつけに背く訳にもいかないのだろう。
洗面器とタオルをサイドテーブルに置いてくれた様だ。
「それでは奥様、私はドアの外で控えておりますので、何かございましたらすぐお呼び下さい」
そう言って少ししてからドアの閉まる音が聞こえた。
私はモソモソと顔を出す。
廊下で待ってくれてるのか、じゃあ手っ取り早く済ませちゃわないと!
見ると洗面器には湯気が出るほど暖かいお湯が入っていて、冷めるのを防ぐために保温の魔石まで入っている。ふかふかベッドに驚いてる場合じゃなかった。ほんと金持ちだなこの家。
「だからこそ公爵家に目をつけられちゃったのよね、きっと。お気の毒ー……」
そんな独り言を言いながらも手早く身体を拭き、身支度を整えていく。
さっきの侍女が着替えも持って来てくれていたので、有り難くそれに着替えた。
シンプルだけれど所々に繊細な刺繍が入った可愛いワンピースで、肌触りが恐ろしくいい。
まさかこれは……し、シルク!??
東方の国でしか取れないという糸を使って織るシルクは信じられない位高価なはず。
それを惜しげもなく部屋着に使うとは、ハミルトン伯爵家! 恐るべし!!
「入っていいわ」
支度を整えて奥様モードで廊下に声をかけると、さっきの侍女が頭を下げて入って来た。
「おはようございます、奥様。お身体の具合はいかがですか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
「旦那様が、奥様が宜しければ朝食をご一緒にとの事でしたが、いかが致しますか?」
ほう、ちゃんと朝食には誘う訳か。昨日の話の続きもしたいし丁度いい。
「ええ、是非ご一緒させて頂くわ」
私がニッコリとそう答えると、侍女も少しほっとした様だった。
「そうそう、昨日からあなたのお名前を聞くのを忘れていたの。教えて下さる?」
「あ、し、失礼致しました! 私、マリーと申します。奥様の身の回りのお世話をさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します!」
「いいのよ。私も聞くのを忘れていたの。よろしくね、マリー」
「はいっ! 一生懸命お仕えします!」
ペコッとお辞儀をしたマリーはまだ若い。多分私と同じ位?
本来であれば伯爵夫人付きになるにはまだ若すぎると思うのだけど、これは私を侮っているのか、はたまた年の近い者を……という好意的配慮なのかどちらだろう?
キラキラと栗色の瞳を輝かせて私を見ているマリー本人からは悪感情は一切感じない。
瞳と同じ栗色のふわふわした髪をお下げにした姿は可愛らしく、私の目には好ましく映った。
「では、奥様がよろしければさっそく食堂へご案内致します!」
「あら? 今から? もしかしてもう旦那様はお待ちなのかしら?」
「あ、はい。もう食堂でお待ちです」
「そう、なら急がないといけないわね」
私はマリーに先導されて私室を出ると、食堂へと向かった。
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