15頁 我楽多と鉄屑

 私は千葉の田舎(イナカ)の百姓家の末娘です。


兄上(杉浦尚道・スギウラナオミチ)は『支那から南方の戦線に回された』と、田舎からジャワの病院に届いた手紙には書いて有りました。

この時期の南方戦線と云ったら「ビルマ」しか頭に浮かびません。

噂では「ビルマ(インパール)」も酷い所だと聞いています。

はたして兄上は生きて居るのでしょうか。

私は生きて再び、父や母、兄上達に会えるでしょうか。

多分、兄上も同じ事を考えて居る事と思います。

そう思わない兵隊サンなど居ない筈です。

そう思った時「一人の人間」に戻れるのでしょう。

ふと、兄上と田植えをしていた「あの頃」の事が頭を過りました。

玉砕しても、全滅したと伝わって来ても、運の良い人は「助かる」のです。

いいえ、運の悪い人が「助かる」のです。

この病院に収容された患者サン達は「運」にまで見放された、役に立たない修復不能の肉体だけの『鉄屑』の様な兵隊サンです。

今はただ、筵(ムシロ)の上に放置された、我楽多(ガラクタ)なのかも知れません。

 また高地の方から、凄まじい着弾音が聞こえて来ました。


 杉浦尚道 陸軍上等兵(兄上)

 (昭和十九年 印度コヒマにて戦死)

                          つづく

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