第474話 変装用


 「さてと。次はフォレスターさんとの交渉に向かう訳だが……。アンジーはどこに行った?」


 ソナン男爵との業務提携契約も無事に終了。そのうち、俺達の裏の実態をバラす事にもなるだろうが、それはもう少し先の話だ。


 ソナン男爵領が『ルルイエ商会』に依存しきった時に、もう離れられなくなった時にバラす。バラす必要がなかったらバラさないが、将来的に帝国とすったもんだなった時に、辺境貴族の力も借りるつもりだ。


 その時にバラす可能性は大いにある。


 で、俺は男爵と交渉っていう仕事が終わったから、後の事を部下に任せてソナン男爵領を後にした。


 定期的に様子を見に行く予定ではあるが、これにて一仕事完了ってやつである。


 久々に商会長らしい仕事をしたぜ。

 普段はホルトや商業部門のみんなに任せてるからなぁ。


 だが、次も商会長のお仕事をしないといけない。イタルリス王国攻略の鍵になるであろうフォレスターとの交渉だな。


 フォレスターの領地は『ランゲタ』の勢力を跳ね返せる程の戦力があるから、こっちもそれなりに備える必要がある。


 それもあって、今回はアンジーにも付いて来てもらおうと思ってるんだが、軽く秘密基地をぶらついても見当たらない。


 「レベル上げにでも行ってるのかね」


 まあ、2〜3日は秘密基地でゆっくりしてから向かう予定だし、すぐに見つからなくても良いかと、そのまま秘密基地での散歩を続けてると。


 「あら、帰って来てたのね」


 「ん? ああ、さっき戻って…うん? ……うん!?」


 ふらふら〜とあっち行ったりこっち行ったりしてると、後ろからアンジーに声を掛けられて。俺がそれに答えながら後ろを振り向くとびっくり。


 「金髪になってる!」


 「ふふっ。凄いでしょ」


 「なんでなんで!?」


 綺麗な黒髪だったアンジー。

 それがびっくりするほどパリピの真っ金金になってるのだ。アンジーはしてやったりって感じの表情のドヤ顔。


 「ほら、ボスが言ったでしょ。『ランゲタ』と戦う時は身バレしないようにって。だから、リズに頼んで変装用の道具を急ピッチで仕上げてもらったのよ」


 「ほほー。こんな綺麗に染めれるもんなんだな」


 「これに後は化粧を施せば、私って分からないわよ」


 確かに身バレ防止の事はお願いしたけど、ここまで変わるとは。髪の色を変えただけで、全然別人に見える。俺はアンジーの事だから、もっと適当にやるもんだとばっかり。


 仮面を付けたり、メガネをかけたり。

 あれって、普通はバレるからねぇ。

 個人的に仮面を付けた謎の刺客ってシチュエーションは好きだけどさ。


 「……それって、元に戻せるよね?」


 「ええ。専用の洗髪剤を使えば、元に戻せるようになってるわ。水が掛かった程度で、色が落ちたりしたら意味ないでしょ? その辺の調整が難しくて苦労したって、リズが言ってたわ。専門的な話すぎて、ちんぷんかんぷんだったけど」


 前々からエリザベスには変装の道具関連の開発はお願いしていた。いつか必要になるかもしれないってね。こんな二重生活をしてたら、身バレしたくない状況ってのは必ず出てくる。


 いつでも良いって言ってたから後回しにしてたんだろうけど、今回の件で急ピッチで作ってくれたんだと思う。後でお礼を言っておかないとな。


 「良かったぁ。その髪色のアンジーも綺麗だけど、やっぱり黒髪のアンジーが一番綺麗だからなぁ」


 「……そうやってストレートに褒められると照れるわね」


 まあ、髪色が戻せるなら一安心である。

 俺の好みを押し付けるようで申し訳ないが、俺は黒髪のアンジーが一番だと思ってるからね。


 「あ、リズからこれも預かってるわよ」


 「ん? 何これ?」


 珍しく顔を少し赤くして照れるアンジーが、無理やり話を変えるように、そこそこ大きい魔道具といくつかの小さい魔道具を渡してくる。


 「ボスがこの前の定時報告で言ってたじゃない。カタリーナが書類をふわって配るやつがやりたいって」


 「あ、あー」


 魔法で書類をふわっと配るやつね。

 確かにカッコよくてやりたいって言ったな。


 「この魔道具に書類を乗せて起動すると、この小さいマーカーの元に飛んでいく仕様になってるみたいよ」


 「ほうほう」


 大きい魔道具に書類を乗せるやつで、小さい魔道具が目印って事か。素晴らしい。


 「あの会議からそんな時間も経ってないのに、もう出来たのか」


 「息抜きで作ったおもちゃだって言ってたわ。多分、そこまで難しいものじゃないんでしょう」


 「いや、結構作りは複雑だと思うが…」


 俺も職業鍛錬の為に、多少は魔道具作りも齧ってるが、少なくとも息抜きでこんなのは作れない。本腰を入れて調べないと、作り方も分からないぐらいだ。


 エリザベスには息抜き程度に作れるものなのかもしれないが…。俺がこれを作ろうと思ったら、かなり時間がかかる。


 「よし! 早速会議室に設置だ!」


 まあ、せっかく作ってくれたんだし、これを利用しない手はない。アンジーと一緒に会議室に行って、魔道具を設置。マーカーも一つ一つの席に埋め込む。


 「おおー」


 「ちゃんと配られてるわね」


 実際に魔道具を起動して、紙を乗せるときちんと席に配ってくれる。


 「アンジー、次の会議でさ--」


 俺はアンジーを探してた事なんてすっかり忘れて、次の会議でのおしゃれムーブについて相談する。俺が指パッチンすると同時に、書類が配られていくムーブをしたい。


 こういう時のアンジーはノリノリでやってくれるからありがたいね。


 次の会議が楽しみだぜ。


 

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