第473話 気になる商会


 ☆★☆★☆★



 「では、私達はこれで。何かご入用でしたら、是非当商会にお声がけ下さいませ」


 「ああ。今日はご苦労だった」


 「失礼致します」


 きちっとした正装…前世で言うところのスーツに身を包んだ商人が、部屋から出て行く。


 「君はどう思ったかな?」


 「……流石、ここ最近で一気に名を上げた商会だなと。どこかフォレスター様を探ってるような印象も受けましたが、受け答えは洗練されていましたし、持ち込まれた品はどれも高品質。ですが、私が一番気になったのは、支店長が着ていた衣装ですね」


 フォレスターは商人が部屋から出て行ったのを見届けてから、同席していた秘書兼妻にあの商人はどうだったかと尋ねる。


 先程まで行われていたのは『ルルイエ商会』のオープン前の領主への挨拶だ。準備が整い、いよいよ支店をオープンするという事で、この領地を治めるフォレスターに支店長が挨拶に来た。


 支店長とフォレスターの会話は、ほとんど事務的なものばかりだったが、謙り過ぎず、それでいて相手を不快にさせない物言いは、フォレスター的には好感触。


 支店とはいえ、流石一つの商会を任されるだけあるなと、フォレスターは感心したものだ。


 これからもよろしくという意味で渡された手土産のポーションや、魔道具はどれも高品質。魔道具に至っては、その場でいくつか欲しいと商談に発展してしまったくらいである。


 「ほう? どう気になったんだい?」


 「見た事のない衣装でしたが、不思議と清潔感と高級感がありました。あれなら、男爵子爵クラスの貴族の方なら飛び付くのではないでしょうか。着飾れるほど裕福な家はそれほど多くありません。恐らく、服飾を手掛けている私達への宣伝の意味もあったと思われます」


 「うんうん、なるほどね。確かにあれは見た事がないなぁ」


 秘書兼妻が気になったのは、支店長が着ていたスーツだった。レイモンドの趣味がかなり反映されているスーツは、支店長クラスから着る事の出来るオーダーメイド品である。


 この世界の富裕層は着飾れば着飾るほど良いという風潮があり、貴族や豪商は皆こぞってゴテゴテした服にアクセサリーなどを大量に付けている。


 目立ちたがりで承認欲求の塊であるフォレスターも当然そうだ。戦いの場に赴く時は動きやすさも考えられているが、権威を見せ付ける時はゴッテゴテである。


 しかし、今日来た『ルルイエ商会』の支店長は、過度な着飾りは一切ない。アクセントとして多少のアクセサリーはあれど、シンプルな装いだったにも関わらず、何故か品があるように見えた。


 レイモンドは裏社会ムーブをする時は、マフィア風スーツ、商会長ムーブをする時は高級感溢れるスーツと使い分けている。


 残念ながら、マフィア風スーツを他所にお披露目する機会があまりないのだが、せっかく作ったんだからと、秘密基地にいる時はそのスーツを着て仕事をしている。


 レイモンドはスーツを着ている出来る男が大好きなのである。恐らく、前世の何かに影響されたと思われる。


 なので『クトゥルフ』幹部の正装はスーツ。

 レイモンドの拘りである。


 着飾る風潮のせいでまだ流行ってない為、知名度が低いが、いつか大陸中で流行らせるというのが密かな目標の一つだ。


 尚、傭兵は軍服、冒険者は各々が好きな格好をしてるのもあって『クトゥルフ』内でもあまり流行っていない。


 レイモンドの目標はまだまだ遠い。


 それはさておき。


 「他には何かあるかい? 気になった事はなんでも言ってくれて良いよ」


 「…なんでも…ですか?」


 「ああ。なんでもだ」


 「…その…あの服はフォレスター様が着用なされたら、さぞかし美しく映えるだろうな…と…」


 「ははっ! 嬉しい事を言ってくれるじゃないか! よぅし! 早速うちの者に試作してもらおう! いや、サンプルとして『ルルイエ商会』から何着か取り寄せるのが先かな?」


 「そうですね…。そうして頂けると助かります」


 「全く! 『ルルイエ商会』は商売上手だね! 宣伝大成功じゃないか! 早速入り用になっちゃったよ!」


 秘書兼妻が、少し顔を赤らめながらそんな事を言うもんだから、フォレスターは商人を呼び戻さないとと大盛り上がり。


 レイモンドのスーツを広めよう大作戦の大きな一歩になるかもしれない。


 「ふぅ…。『ルルイエ商会』の者はまた後日足を運んでもらうとしてだ。話してみた結果、違和感のようなものは感じられなかったな」


 「…そうですね。私もこれといって不審な点は見当たりませんでした。探ってるような雰囲気はありましたが、それは商人なら普通の事ですし」


 盛り上がりから少し落ち着いたフォレスターは顔をキリッとさせて、真面目モードに戻る。


 いつの間にか秘書兼妻を隣に座らせて肩を組み、かなり密着した状態なので本当に真面目モードになっているかは怪しいが。


 「ふぅむ。『ルルイエ商会』を隠れ蓑に、何か大きい事をしようとしてるんじゃないかと思ったんだが…」


 「一度の会話で色々判断するのは早計でしょう。『ヨグ=ソトース』に『アザトース』と、一つの商会が抱える戦力にしては大きすぎます。適度に付き合っていきながら、真の目的を探っていくべきかと」


 「真の目的があればだけどね。まあ、考えすぎならそれでも良いか。警戒はしておくに越した事はない。それとなく気に掛けておくように部下には指示しておこう」


 フォレスターは『ルルイエ商会』について、色々と気になる事があった。行く先々で治安が良化したり、ここ数年で一気に躍進したのは何故か、過剰なまでに抱えている戦力、高品質な品物の仕入れ先などなど。


 何か裏で大きな事をやろうとしてるのではないかと、警戒はしているのだが、今回の会話では何一つ読み取れなかった。


 自分の考え過ぎなのか、それとも本当に何かをしようとしてるのか。


 フォレスターはこれから程々に付き合いながら、それを見極めていこうと心に決めて、秘書兼妻とイチャイチャするのであった。


 今日のフォレスターは真面目モードが長続きしない日だったみたいである。

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