第15章 それぞれの思惑

第471話 懐柔成功


 定時報告会議が終わってから数日。

 俺は相変わらず、スパンダ帝国のソナン領に滞在していた。


 一つの場所に商会長という立場でこんなに長い間滞在したのは初めてである。夜は秘密基地に帰ったりもしてるが、ここは中々に居心地が良い。


 お世辞にも裕福と言えない領ではあるが、男爵さんの人徳の賜物だろう。領民は良い人ばっかりだし、俺達とも仲良くしてくれる。


 まあ、それも色々な利益をぶら下げてるからってのもありそうだけどね。商会の品を格安で提供したり、山で採れる薬草類やきのこ、魔物素材なんかも相場よりちょびっとだけ割高で買い取ってる。


 一ヶ月ちょっとの滞在だが、俺達が来たお陰で少しは生活が良くなったって事で、領民達の心が一気にオープンになった。


 やっぱりこういう限界ギリギリの領地は、安心を提供すると一気に内に入り込める。


 キャメロン君に疑心暗鬼に見られてたのも、誤解が解けてからは少しずつ打ち解けてきた気がするし。


 そんな今日。

 俺は男爵さんにお呼ばれしていた。

 貴族の邸宅には見えない少し大きいぐらいの家に入って、畏まった姿勢の男爵さん達と話をする。


 「レイモンド殿。まずは感謝を。お陰で我が領内が少し活気付いてきた。今までどれだけ領民に我慢をさせてきたのかと、不徳の致すところだ。これも『ルルイエ商会』の温情のお陰だ。感謝する」


 「いえ。私達も商人ですから。下心ありきでやってますのでお気になさらず。ですが、少しでもお役に立てたなら光栄です」


 決して善意でやってる訳ではありませんよと言っておく。こう言う方が男爵さん達も楽だろう。無償の善意ほど怖いものはないが、こうやってきちんとこっちの目的が分かってれば、相手も話しやすいはずだ。


 「それでだな。実験的にやっていた紙作りと農業。どちらも一定の効果が出たと、我々は判断した。以前、レイモンド殿がしてくれた提案、是非お願いしたいと思っている」


 「そうですか! いやぁ、それは嬉しいです!」


 ふぃー。

 やっと男爵さん達の懐柔に成功。

 暴力を使わずに穏便に侵略するのって、こんなに難しかったんだな。約一ヶ月という時間が早いのか遅いのか…。多分、早い方なんだろうけど、慣れない事をするのは中々疲れるね。


 とはいえ、ここでボロを出して今までの頑張りを無駄にする訳にはいかない。俺はとても嬉しいですって気持ちを全面に押し出す。


 キャメロン君は俺の擬態力を知ってるから、ちょっと呆れた顔をしてるけどね。


 前までなら、この場でも厳しい表情をしてただろうが、打ち解けてきてからは少し、表情で感情を見せるようになってきてくれた。


 それでもこの場で何も言わないって事は、態度はどうあれ一定の信頼は得られてるんだと思う。俺達が男爵や領地に害を与える存在だと思えば、ここで反対してくるはずだしね。


 「では、契約の方を詰めていきましょうか。こちらでいくつかプランを用意してますので、男爵様達がこれが良いというものを選んで下さい。もちろん、この場で即決でなくても大丈夫です」


 俺は魔法鞄からいくつかの資料を出す。


 とにかく手っ取り早くお金が欲しいプラン、長期的にゆっくりと改革していくプランなどなど、色々なパターンを用意してある。


 その場合の『ルルイエ商会』のサポート、取り分、はたまた近隣領地の協力などなど。この辺の辺境は大体『クトゥルフ』と『ルルイエ商会』の支配下みたいなもんだから。


 この男爵領は貧乏な分、初期投資が中々難しい。そういう場合は近隣領地の助けも必ず必要になってくる。俺達が全部持ち出しでやっても良いが、この際だから辺境の活性化にも力を入れていきたい。


 幸い、この辺で一番力を持ってるペテス辺境伯は俺達の味方だ。辺境伯の元で力を合わせて発展させていって、来たるべき時に力を貸してもらいたいと思ってる。


 領地がギリギリなのに、力を貸してくれなんて言えないからね。


 辺境の貴族達で力を合わせて、中央の腐った帝国をぶっ潰す。膿を一掃して新しい帝国として生まれ変わってもらおう。帝国という形が残るかは分からないし、膿は俺達自身と言われてしまえばそれまでだが。


 ……教会よりはマシだと思いたい。

 どっちにしろ、今の帝国じゃダメだと思うしね。海欲しさに周辺国に喧嘩を吹っ掛けまくり過ぎて嫌われてるし、内ゲバで国は荒れに荒れまくってるし。


 そういうのを一旦リセットする為にも、帝国の一旦の解体は必要不可欠だろう。それを出来るだけ混乱しないように、穏便に済ませられるかが腕の見せ所である。


 何回かの戦争は避けられないだろうが、その辺も上手くコントロールしないとな。


 冷静に、ただの裏組織が考えるような事じゃないんだわ。


 なんでこんな事になったんだろうね。

 俺はその場の思い付きで、裏社会のボスになるとか言って、あれよあれよと組織が大きくなって。


 悪い事もいっぱいしてるけど、なんか世界を良くする為に動こうとしちゃってる。


 まあ、それも全部教会が悪い。

 教会が俺達でもドン引きするような事を平気でやってるから、仕方なしに防いでいこうと思って今がある。帝国相手には私怨も混じってるけどね。


 とりあえず子供に手を出すのはダメよ。


 俺はそんな事を思いながら、男爵一家に資料を交えながらプレゼンしていくのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 前話で一旦章を区切りました。

 話を広げすぎて長くなりそうだし、なんかちょうど良かったので。いつもの章終わりのご挨拶が出来ませんでしたが、今日から新章です。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る