第116話 暇


 「すっごい事に気付いたんだけどさ」


 「? なんでしょう?」


 商会は順調な客入りで繁盛している。店内で宣伝の為に、リバーシをやらせてるのが良いのかな。既にデッカー領の酒場とかでやってる人がチラホラと見られる。


 これはいずれ大会とか開くのも面白そうだななんて考えながら、秘密基地の執務室でハンコ押しマシーンになってたんだけど。


 「軌道に乗るとすっごい暇だね。みんなが優秀すぎてやる事がない」


 「それは…そうですね…」


 商会はホルトや、俺のなんちゃって現代知識で勉強した商人連中のお陰で順調。


 裏組織は深層で常日頃から腕を磨いてる戦闘部の連中のお陰で順調。

 課題だった対人戦も、元レーヴァンの傭兵組と訓練してるから克服しつつある。

 現在まとめ役をしてるマーヴィンも、長年アンジーを支えてただけあって優秀だし。


 「俺のやる事は?」


 「ありません。強いて言うのであれば、レベル上げになるのではないかと」


 「だよなぁ」


 秘密基地の統括もカタリーナが卒なくこなしてくれてるから、俺は報告書を読んで決裁するだけ。とにかく暇なのです。


 「転送箱はまだ本格的に運用されてないんだよね?」


 「はい。何度か試しに使われてはいますが、伯爵関係者以外が使った形跡はありません」


 あそこが本格稼働し始めたら地獄になるんだけど。果たして伯爵さんは最初に誰に渡すのかな。まずは自分の派閥で使うだろうけど。広まるにはもう少し時間がかかるよなぁ。


 「伯爵さんの政敵に売り込むか? じゃあこの国中には一気に広まるだろ」


 「派閥は二つしかありませんからね」


 国王派と貴族派。

 どこの国もこうやって派閥で分れてるよね。俺からすると王政を敷いてるのに、なんで貴族派とかが出てくるのかが謎なんだけど。素直に王様に従えよ。


 まぁ、色々理由はあるんだろう。

 王様がクズだったら、心ある貴族が立ち上がらないと腐っていく一方だし。

 一強状態も良いとはいえないからね。対立する派閥があるからこそ、国は健全に回るとも言える。


 大抵は美味しい蜜を吸えるように動いてる奴らばっかりだろうけど。これぞ人間って感じだよね。


 「裏組織なんて立ち上げてる俺が言えた事じゃないけどね」


 「最近の私達の活動をみると、本当に裏組織なのか疑問ですが」


 仕方ない。元死にかけの孤児だったレイモンド君は孤児を見捨てれないし、俺が裏組織を立ち上げようと思ったきっかけでもある。

 裏を支配出来れば、少なくとも俺が目の届く範囲では、孤児が転がってる事なんてないだろう。孤児は自然とスラムに流れてくるからね。


 娯楽を流行らせたいのだって、完全に自己都合だ。この異世界は暇すぎる。

 マジで庶民の娯楽って夜の営みとチンチロぐらいしかないんだよね。そんなの現代の娯楽が溢れた世界の記憶がある俺が耐えられる訳がない。


 「あ、そうだ。今度こそカジノを作りたいね」


 「それにはトランプを売り出さないといけないのでは?」


 「やっぱりそうかぁ」


 トランプを売っちゃうとなぁ。別にカジノに来なくても、身内だけで賭け事が成立しちゃうじゃん? かといって、トランプはこっちが売らなくても、簡単に模倣出来る。


 リバーシもそうだけど、こういうのは初動が勝負なんだよね。まだ一つの街にしか商会がない俺達じゃ、一気に広める事が出来ない。


 ルルイエブランドとして認められたら、偽物を使ってるなんてダサいみたいな噂を流させたら淘汰出来ると思うんだけど。それをする人員がまだ全然足りてない。


 前世みたいにインターネットを介して宣伝出来るならまだしも、転送箱を作ってる事からお察しだが、この世界は基本的に口コミで広がっていく。あんな高度な情報網を構築するなんて、100年掛かっても無理なんじゃないかな。


 「カジノも当分見送った方がいいか?」


 「出来るだけ真似されたくないならそうですね」


 多くの場所で一気にやるべきか。真似されやすいシステムだしな。

 こんな事を考えるのは、多分この世界の人間じゃ無理だろう。だから、焦らずにゆっくり準備を進めていけば良いと思うんだけど。


 「他にも転生者とかがいたらなぁ」


 「極小の可能性ですよ?」


 そうなんだけどね。物語では現代知識で調子に乗ってると、それ以上のチート転生者にざまぁされるってのが定番で。


 カタリーナが言うように考えすぎかもしれないけど、万が一転生者が俺以外にもいた時に備えて、俺が知ってる現代知識は吐き出して、全部利益に変えたい。


 せっかくのアドバンテージなんだから取られたくないんだよね。前世の偉人達がたくさん試行錯誤して考えたモノやシステムを丸パクリして、俺が利益を得るのはせこいけども。俺ちゃんは使えるものはなんでも使う主義なので。ありがたくパクらせてもらいますよ。


 「まぁ、俺のわがままで教育を急がせて中途半端な人材に育つのも困るし。ここは焦らずにじっくりいくのが良いんだろうな」


 果たして俺の寿命が事切れる前に、全ての目標を達成出来るんだろうか。

 エリザベスさん、不老薬を作って下さい。俺が異世界を存分に楽しむには人間の寿命じゃ少なすぎますぜ。

 

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