ほのかな

野名紅里

ほのかな

一息を長くして吹く石鹸玉

猫の恋パズルのピースふつくらと

カレンダー部屋に二つやシクラメン

春雨や手鏡伏せて部屋を出づ

春服の釦のひとつひとつかな

三月の漁師真赤き水を捨て

霞みつつ耳に羽音は遠ざかる

人形の靴の小さき春一番

遠まはりして卒業のだれもかも

風船の括られてあるベビーカー

焼菓子のふくらみほどに山笑ふ

菫咲く少し菫でないやうに

折紙を一度開いてこどもの日

口癖の移る車内や花は葉に

永劫や波に水母の歪み方

滝落ちて耳は左右にざわざわと

指紋ほどのほのかな皺のさくらんぼ

割つて買ふ石鹸えごの花が咲く

結論をゼリー重たく揺れるとき

球場にあふれてビール注がれけり

反対のプールサイドの男子かな

裸の子ラジオの部屋を走り抜け

ジャグリングのピエロ化粧のうへに汗

心臓に血の満ちてゐる登山靴

夕焼やだんだん重くホース巻く

警官の紺のベストや里祭

持たされた桃傍らに始発待つ

ぢりぢりと止まつてゐたる相撲かな

かなかなや選挙に行つて乾く喉

鯊の鰭透明にいま告白す

指曲げて皺の伸びたる菊日和

その中の育ち損ねた葡萄の実

朝霧を完全にするため黙る

秋桜に脈絡を失ふことば

サイコロの伏せられし面居待月

秋の海波に終はりの幾度も

クレープの紙破つては文化の日

まんまるな防犯カメラ神無月

冬浅し風車の町に風の止む

しづけさの器のやうな冬の堂

凩や色変へながら癒える痣

夢の中でも人参を剥いてゐた

理由なく会へたむかしの蜜柑箱

通院の手袋の先やや余り

本棚に小さくクリスマスツリー

ヘッドライトがたちまちに照らす葱

白息やいつも間違ひつつ選ぶ

教会の雪ときりんの引越しと

花嫁を遠くに鯨身を返す

約束の増える二人の布団かな

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ほのかな 野名紅里 @nonaakari0128

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