第14話 詩人と踊り子



 ケルウス一人なら、兵士に化けて侵入できる。が、コルヌもいっしょでは、そうもいかない。コルヌはどう見ても兵士に見えない。


 しかたないので、大道芸の詩人と踊り子というふれこみで、王に謁見えっけんを申しこんだ。と言っても、申請さえすれば誰でも王の拝謁はいえつがゆるされるわけではない。その前に審査があり、合格した者だけが王に会える。


 審査をしているのは、ウワサのラケルタだ。

 中庭で謁見待ちの行列にならびながら、兵士を両側につれて椅子にすわる貴公子をながめる。


 なるほど。たしかに美しい男だ。さらさらのわら色の髪に、瞳は明るいグリーン。爽やかな容貌。

 だが、もちろん、顔立ちの美しさではコルヌが上だ。いや、上だ。


 ラケルタは尻尾の青いトカゲのような魅力があるものの、あくまで、肉体を持った若い男だ。神に捧げられた彫像に精霊の魂が宿ったかのような、絶妙に中性的で神話めいたコルヌとは次元が違う。


 それは、ラケルタ自身、感じたのだろう。


「……」


 やっとケルウスたちの順番が来て、さあ歌おうとした瞬間に、ラケルタがとどめた。


「おまえたちはいい。帰れ」


 容姿でのしあがった彼としては、ライバルを宮殿へひきいれる気はないらしい。それは当然だ。

 とは言え、こちらもかんたんにひきさがるわけにはいかない。


「お待ちください。せめて、ひとさし、舞わせてください。必ずや陛下のお眼鏡にかないますから」

「陛下は今、歌や舞を見聞きなさるご気分ではないのだ」

「では、わたくしが卵を見つけてさしあげると言っても?」


 これは賭けだった。ラケルタはウンブラにきわめて近い位置にいる。もしも、ウンブラが卵を隠し持っているなら、きっと警戒するはずだ。案の定、ラケルタは急に笑顔になって近づいてくる。


「私の部屋へ来なさい。くわしい話を聞こう」


 これは吉と出るのか、凶と出るのか?


 ラケルタは他の人の審査を部下に任せ、一人、先頭に立って、宮中へ入っていく。宮殿のなかに彼の執務室があった。よほど厚遇されている。中庭に面しているので、審査待ちの行列が、窓から見えた。


「さて、聞かせてもらおうか? 君たちは何をどこまで知っているのかな?」

「陛下が竜の卵をご所望しておいでだと聞きおよびました。レクシアの竜からアクィラが奪った卵です。が、それは今、行方不明のようですね」

「卵のありかがわかるのか?」

「私は幻視者なれば」


 ラケルタはクルクルと目の表情を変える青年だ。魅力的ではあるが、あざとさが、かいまみえる。


「幻視者か。昔は大勢いたらしいな。竜の神がつねにこの世にあった時代には。聞くところによれば、われらの世界はしだいに神の世から遠ざかっているらしいではないか?」

「この世界は三千世界の一つにすぎないが、極世界にきわめて近い。それがゆえ、不思議が多く存在し、ときには極世界の神が気ままに降臨される。コルヌの世界は始まったばかり。であるがゆえに、遠のく世界である。それでも神は退屈している」


 ラケルタは肩をすくめた。

「何を言っているのか、サッパリわからない」


 ケルウスは聞き流してくれてけっこうと断ってから、さらに詳細に説明する。


「星には多くの平行する時間が存在する。そのすべての誕生から死まで、球状にならんでいるのが三千世界。三千世界と次の三千世界をつなぐのが極世界です。極の管理者は己が三千世界のすべてに干渉可能。われらの世界の極管理者はコルヌレクス。その前の世界はドラコレクスだった。アクィラはさらにその前のリーリウムレギーナをあがめているようだ。もはや、リーリウムの魔力が残っているはずもなかろうに」


 今度はコルヌと顔を見かわしている。ケルウスは失笑した。


「まあ、そんなだから、卵があれば見えると思う。あれは極世界からもたらされたものだしな」

「よくわからないが、では見つけてもらおうか。一つだけ注意しておく。卵が見つかれば、他言せずに私にまっさきに伝えるのだぞ? よいな?」


 この言いかたであれば、ウンブラは卵を持っていない。または、ウンブラが所持していることを、ラケルタは知らない。そして、ラケルタ自身もまた卵を欲している。これだけ美しい男だ。永遠に老いない命が欲しいのは当然の理か。


「わかった。そのかわり、宮中を自由に歩けるようにしてくれ」

「よかろう。これが通行証だ」


 ラケルタは通行証に、ドンと彼の印章を押した。

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