燭光の勇者(凡人でも勇者になれる方法)

@tau3758

第1話 始まり

とある村にある家での出来事


「元気な男の子だ、これでお前も母親だな」

というひげを蓄えた屈強な男。

「ええ、あなたも抱いてみる?」

という翡翠の色の長い髪をもつ、赤子を抱いている女。

「いや、俺が抱くとつぶれてしまいそうだ。やめておくよ」

「そんなことないわよ。それにあなたも父親になるんだからこれくらい慣れておかないと」

「そう…だな」

女は男に赤子を優しく渡した。

男は不慣れの様子で赤子を見つめる。

「おまえも俺のような立派な男になるんだぞ」

と声をかける。


赤子は男の目を見つめて、

「きゃっきゃ」と笑う。


「そういえば、お前も知ってるか。隣国の帝王ハゲワルド様が危篤状態で、王位継承争いが勃発寸前だそうだ。そのため、今王国では軍部の強化が急がれているらしい」

「それって、あなたは…」

「ああ、まだ先になるだろうが、赤紙が来るかもな」

赤紙とは、戦場への召集令状のことである。

「赤紙!じゃあ戦争になる可能性が高いってことなの?」

「ああ、第一王子と第二王子が争うらしい。そのために王国としてもどちらかの王子に力を入れるっていうだけさ。どうせ隣国のことだから、そんなにすることも少ないんじゃないか。ただ、俺らの領地と帝国が隣接しているからな。少なからずも余波はあるだろう」

「そうなの、赤紙来ないと嬉しいわね」

「そんなこと言うな。誰かが聞いてるかもしれないし、戦争に行くってことは名誉なことだろう」

「そうだったわね。ごめんなさい」

「わかればいいんだ。それで…」


「おぎゃあ、おぎゃあ」

赤子が泣き始めた。


「すまん、すまん。怖かったか。…どうすればいいんだ」

「ああもう、貸してください」

女は男から赤子を受け取って、安心させるように優しくあやす。

「…あとすまん、今思えばこんなめでたいときにするような話じゃなかった」

「そうですよ」


時は流れ、16年後...


赤子はすっかり青年となり、村では一番の働き者として名を知られていた。

「母さん、おはよう。今日も行ってくるよ」

「ええ、気を付けて行ってらっしゃいね。ライト」

母は、いつも元気に青年を送り出す。

「うん」

そういって、青年ライトは父と同じように畑仕事に向かった。


青年が歩いていると、村人が声をかけてくる。

「おう~ライト、今日もいつもどうり畑仕事か?精がでるねぇ」

「はい、いつもどうりの畑仕事ですよっと」

「たまには、うちの娘と遊んだらどうだ。さみしがってたぞ。「ライトが全然遊んでくれない―。」って」

「ははは、考えておきますよ」

「うーん、…お前のまじめなところは知っている。でも時には肩の力を抜くことも必要だぞ。人生の先輩からのアドバイスだ」

「はい…けどもやらなければならないので」

といって青年はうつむいた。

「お前なー、あの時は大変だったことはわかる。でも今は余裕あるんだろ。だから1日ぐらい休んだって何ともないって」

「ごめんなさい。俺は…」

「俺は…なんだ?」

「やっぱり何でもないです、もう時間なんで行きますね」

青年は誰かに押されるように歩き始めた。

「ああ、ちょ、...はぁ」

村人は心配をよそに牛の世話を再開した。


青年の一日の予定として、朝から夕方まで畑仕事をし、帰ってきて夕食を食べた後、剣の練習をする。畑仕事がない日は、くたくたになるまで剣を振る。または時々来る冒険者に技術や村の外の話を教えてもらう。ただこれだけだ。


「はぁ、今日はあっついな」

と愚痴をこぼしつつも畑仕事をしていると、

「なんかしけた顔してるね。ふふ」

と藍色の髪をした村娘が言った。

「なんだよ。邪魔すんなよ」

「えぇ~ひっどい。熱いから、店で買ったかき氷持ってきたのに」

村の近くには夏でも冷涼な洞窟があり、冬に凍らせた氷を置いておき、夏に売る。うちの領地ではところどころそのような洞窟があるため、1つの大きな商売になっている。

「そんなの、この暑さじゃ溶けてるんじゃないか」

「それは大丈夫だよ。店の人から、「たぶん大丈夫だよ~」って言われたから。ほら、この水筒の中に...うへぇ溶けてる」

水筒の中には、水とシロップが混ざったようなピンク色の水が入っていた。

かき氷には買うときにカップか持ってきた入れ物に入れることができる。安く済ませることもできるため、村娘は入れ物を選択したらしい。

「やっぱりな。そんな気がしたよ。どうせ適当なことでも言われたんじゃないか」

「そんなことないもん。笑顔で売り切れセールだから安くするって言ってたもん」

「まず、多分売り切りだし、ただいい顔して早く売りたかっただけじゃない?」

「売り切り?...」

首をかしげて村娘はそういった。

「売り尽くすことだよ」

「ほぼ同じ意味だからいいじゃん。それに絶対売り切れセールって言ってたもん」

「そこまで断言されると間違ってるんじゃって思って、不安になってくるわ」

「絶対そういった」

村娘は、ない胸を張ってそういった。

「わかった、わかった。別に溶けた氷でもいいからくれよ。多分まだ冷たいと思うし」

「残念、これ一つしかないの~、だからライトの前で食べようと思って」

「はぁ⤴じゃあ、何のために来たんだよ。ていうかもう一つの水筒見えてるし」

村娘が持ってきた、可愛い?何かの模様が描かれた水筒以外にもう一つ水筒がある。

「私が二つとも食べるんだよ」

「そんなわけないじゃん。そんなに食ったら太るよ」

「もう、そんなこと言わないで。……ライトが意地悪するからじゃん」

村娘はライトのことを少し睨んだ。

「別にしてるつもりはない」

「あと何のためにって言われると、私もライトのことが心配だからだよ」

「そうかよ。…ありがとな」

「まったく、そんなふうに毎回素直になってくれればいいんだけど」

「別に俺はいつも素直だし」

「あっ、「別に」って言ってる。ライトがそういうときって大体逆のことが多いからなぁ、うんうん、そういうことなんだね」

「はぁ⤴別にそんなことないし」

「また、「別に」って言ってる。ふふ」

「うるせー」

青年は顔を村娘から背けた。


夕方になって、青年は家に帰宅する。

「ただいまー」

「おかえり、ライト」

家では、母がまた元気に帰りの返事をしてくれる。

「もうご飯できているから、お腹すいたでしょうから早く食べましょ」

「うん、確かにお腹すいた。母さんのごはん楽しみだな」

「また、そういうこと言って。別にいつもと内容は変わらないわよ」

食卓には、黒パンと市場で買った野菜のスープが置いてある。運が良ければ時々ここに小さいお肉が入ることがある。どうやら今日の食事には、肉はないようだ。

「うんうん、やっぱり母さんが作るご飯はいつも安心する」

青年は顔を綻ばせ、スープにパンを浸して食べた。

「安心って言い方は妙だけど、そんな顔して食べてくれるならうれしい」

「なんかThe 家って感じ」

「そっちのほうがわかりずらいわよ。ビレッジちゃんとはどうなの?」

「なんで、いきなりその話?」

青年は少ししかめっ面をしながら言った。

「ビレッジちゃんのお母さんと市場に行ったときに遭遇してね。話してたんだけど、ビレッジちゃんが嬉しそうにかき氷をライトと一緒に食べてくるってうっきうっきで出かけたと聞いてね。そりゃ、親としては聞きたいもんじゃない。」

「別に何でもないよ」

青年はぶっきらぼうにそう言った。

「ふふ…そうなんだ」

「そうだよ。悪い⤴?」

「悪くないよ」

母はそういって、微笑を浮かべ楽しそうにまた話す。

家では、穏やかな空気が流れていた。

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