どこにもいけない

私は世界の舞台装置みたいに死ぬのが嫌だった。花火みたいに生きられたらそれでよかった。


私は親を殺した

今日は一段と死にたさがある。いつもは軽い死にたさで実行する気なんてさらさらないのに。駅のホームをふらふらと歩いていると、きっと一緒の気持ちの里香ちゃんに手を引かれ抱きしめられた。力いっぱいどこにも行かないように。その時間だけは生きていることを肯定されているような許されるような気がして私たちは到着のメロディーがファンファーレのように流れるまではそうしていた。


不意に里香が私たちなんだかこのままどこまでだっていける気がするね。なんてどっかで聞いたようなことを言って笑う。そうだねと返した。私たちを見て親殺しの殺人者なんてことを思う人はいないだろう。まあせいぜい学校を抜け出して遊びに行っているちょっと背伸びした子供だ。そんなことしても大人になれないよなんて偽善の目を向けられ私たちは可哀想な子供になる。こんなにも幸せなのに、2人なら何も怖くないのに。パパ以上に怖いものなんてなかったから。

 

 私はさえに生きてほしかった。生きてさえいればいつか幸せが来ると信じてたから。あの時さえはとても幸せそうなどこか諦めたような顔をしていたその顔を作り出しているのが彼女の父親だったことが許せなかった。その顔は私だけに見せてほしかった。幸せを与えるのは私だけで心の拠り所も私だけが良かったのに。近親相姦の様子をまじまじと目に焼き付けてしまい、焼きついたフィルムのようにその場に子供みたいに立ち尽くすことしかできなかった。その時が来た、彼女は私に助けを求めてきた、すぐそこにあった傘立てから傘を抜いて、ただ鉄の塊になったそれを持ってあのクソ親父を仕留めに行く、私は今から人を殺す、傘立てを持ってリビングに向かうあいつはまだまださえに夢中だ。許せない。後ろから傘立てを力いっぱい振りかざす。ガキン、と音を立ててフレームが曲がるまだ生きている。もう一度殴ろうとする。反撃された。感じたことのないような痛みが全身を稲妻みたいに流れる。痛みは腹からだった。嘔吐する。するとすかさず二撃目がくる倒れていたから腹をまた思い切り踏まれた。息が上手くできなくて、苦しい。

でもきつい一撃をもらうとさえの苦しみを共有できた気がして嬉しかった。

遅効性の毒が回ったみたいにそいつが床に倒れ込む。キッチンにあった包丁を取りそれを滅多刺しにした。スッキリした。気分は最悪だった。これからなんか考えられなかった。それをほったらかして私は今駅にいる。持ち物はあれの財布と心ここに在らずなさえ。ふらふらと歩くさえを私は抱きしめる震えていた。私は何も言えず抱きしめることしかできなかった。


私はどこか遠くに行きたかった。私はさえを少しでも元気付けるために「なんかこのままどこだっていける気がするね」といった。精一杯の見栄だった。行けるはずがない。人を殺したんだから。

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