ハイリスク、ノーリターン

秋乃晃

前編

「プレゼントはわ・た・し、ってあるやんか」

「あるね。実際はそんなシチュに出会したことないけど」


 身体にリボン巻くやつでしょ。知ってる知ってる。誰に巻いてもらったんだよアレ。自分で巻いたんかな。あと、どうやってその場所まで移動してきたんだよ的な。プレゼントボックスの中からどぉーん、みたいなことしてるけど、運んでくんの大変だろうに。


「ちんちんにチョコ塗ったらウケるんちゃうか思うて」

「やってみろよ」


 ――次の日、アイツは学校に来なかった。


 まさかね。と思ったが、週明けにガハハと笑いながら「チョコを塗ろうとして大火傷したんよ」と理由を聞くよりも早く答えてくれた。案の定なことがあるかよ。


「家の人、止めてくれよ……」

「かあちゃんが早めに帰ってきてくれて助かったわ」


 アイツの家庭事情を知ったのはこの時だった。かあちゃん息子アイツとで二人暮らし。昔っから『思い立ったが吉日』とさまざまなチャレンジをしていて、その度に学習してきた。例えば「かあちゃんがいると叱られるので家でなんかするならかあちゃんのいない時がイイ」みたいな。叱られんのわかってんならやるな。


 台所で倒れている息子を見たアイツのかあちゃんに同情する。すぐに病院に連れて行かれて、手当を受けてからめちゃくちゃ怒られたらしい。そらキレるわ。


「やらんほうがええで」

「やらんわ」


 と、まあ、こんな感じで、アイツはアホだった。


 受験して入っている学校だから、脳のレベルはだいたい同じぐらい、なはずだけど、その脳で自分とアイツが同レベルってことを否定したくなる。っていうか成績面で見たらアイツは超優秀で、生徒会長もやってたし、男にも女にもモテていて、大学もイイところに行った。湯せんしている時点で「やばいかも」って思わんか? 普通。バカと天才は紙一重、ってやつ?


 別の大学に行ってからも、最近どうよってな感じで連絡を取り合っている。さすがに懲りたっぽくて、チョコ事件を上回る事件は起こしていないようだった。そうであってほしいよ。


 そのうちお互いに彼女ができて、次第にメッセージのやりとりは減って、代わりにインスタのストーリーで近況を流し見するようになる。元気にやってんのわかりゃいいよ。


 だから、アイツから久しぶりにメッセージが届いた時にゃあ、おう、なんだ、マルチの勧誘か金を貸してくれのどっちかか、そういうの頼みやすい間柄ではあるよなあ、いや、入らんし貸さんし、なーんて、思った、んだ、けど……。


「は?」


 続けざまに彼女からもメッセージが届く。写真も送られてきた。ついでにスタンプも。


「へ?」


 なんでアイツと彼女が一緒にいるわけ?

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