第20話 白い部屋 - 2 -

俺の目の前に現れたエルは、少しだけ俺に微笑んだ後、神様に向かって片膝でこうべを垂れた。


「本来この者には名など無いが、便宜上『エル』と言おう」

「エル、無事だったんだね」

「うむ、大丈夫だ」


言葉を発しないエルに代わり神様が答えたが、俺はエルの無事な姿を見てようやく安心した。


「さて、平均たいら ただしよ。話を続けるぞ」

「はい」


「そもそも、神というものは存在しない」

「え? だって、あなたはさっき自分で神様だと」

「あぁ、そう言った。だが正確に言うと『神』というものは概念だ」


『神』というものは、あくまで概念であって形として実存するものではない。人間がイメージしたものがする。だから、神様というものは人間が思い描いた数だけ存在する。天照大御神あまてらすおおみかみもゼウスも、人間が考えた数多あまたあるイメージの中のたった一つでしかない。山や海や草木や物にでさえも、神が宿ると思えばそこには神が存在する。


目の前の神様はそのようなことを言った。


「お前に儂はどう見えている?」

「えっと...俺が想像する神様、そのまんまです」

「そうだろう。今の儂の姿は、お前がイメージしたものが具現化しているからだ」


人間や人間の世界がより良くなるように導くのは神の役目のひとつ。しかし、神が直接手を出すのは稀なことで、人間への対応は神に仕えている天使が行う。


神様がそこまで言うと、エルは振り返り真っすぐにこっちを見た。


「私は、カミシタに仕えるンジェなのです」

「あっ...だから『カミシタ エル』なのね」


エルは深く頷き、また神様のほうを向いて頭を垂れた。



なんと、天使のような美少女だと思った女性エルは、本物の天使だった。



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