第15話 レイジ ばあちゃんへお小遣い
南口へ向かってゆっくりと歩く。
背負っていたリュックを代わりに持ってあげたら意外と重い。
都内に住んでいる、古くからの友人の体調が芳しくないと聞いて、地方から始発の新幹線で出てきたと言う。
(あたしが行ったからといって、どうなるもんでもないんだけどね)
独り言のように言う老婆にかける言葉もなく、俺たちは黙って歩いた。
「ここが南口です」
リュックを渡し、俺は立ち去ろうとしたが、どうも老婆の様子がおかしい。ポケットに手を入れたりリュックの中をひっくり返すくらいの勢いで何かを探している。
「お財布を落としちゃったみたい...」
「とりあえず、交番でおまわりさんに話を聞いてもらいましょうか」
「ぁぃ。。。」
消え入りそうな声。
今にも泣きだしそうな老婆を、すぐ近くにある駅前の交番まで連れていく。
お金が見つからなかったらどうするのだろうか。交番へ連れていくのはいいが、警察ではお金を貸してくれないと聞いたことがある。
交番でおまわりさんが老婆から話を聞いている間、俺は近くのコンビニまで走った。
外出しても支払いはカード決済やスマホ決済が多いので、俺はあまり現金を持ち歩かない。でも今日はエルと会うから、なにがあってもいいように多少の現金はあるが、全て一万円札だ。
コンビニ内のATMで千円札にしてお金を下ろし、また交番へ戻った。
交番では、おまわりさんは笑顔だが相変わらず不安そうな老婆。
「おばあさん。ここからどこへ行くか聞いていなかったけれど、この辺はわかり辛いから、近くてもタクシーを使ってくださいね。これタクシー代です。お礼もお返しもいりません」
俺はそう言って千円札を三枚、老婆に渡した。さすがに一万円札を渡しても受け取らないだろうと思ってね。おまわりさんも老婆も驚いたような顔をしている。
「見知らぬ人から施しをもらうわけにはいきません」
案の定、素直に受け取ってはもらえない。普通、断るだろうね。
「孫がおばあちゃんにお小遣いをあげたって思えば、どっちも嫌な気持ちにならないでしょ?」
俺は、戸惑う老婆の手に押し付けるようにお金を渡したが、少し硬い表情が崩れた老婆を見て心が痛む。
(これは詭弁だ。俺は
「約束があるので行かないとならないんで、最後まで付き合えずに本当にごめんなさい」
そんな俺の心情を察してか、おまわりさんが頭を下げた俺の肩を優しく叩く。
「何を言っているんだ。ここまでしてくれたら、後は責任をもってこちらで対応するから、日本の警察を信じなさい。できるなら君をパトカーで送ってあげたいくらいだ。本当にありがとう!」
大きな声で言うおまわりさんに背中を押され、深く頭を下げる老婆を背に、俺は走った。
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