第14話 レイジ 小さな親切

電車の中はいつもより混雑をしていた。駅近にデパートがオープンしたってどこかで見た気がするが、その影響だろうか。


ホームに着くと、電車から押し出されるようにして改札へ向かう。

ここからコーヒーショップへは歩いて十分じゅっぷんもかからない。時計を見るが約束の時間には十分間に合うだろう。


と、駅前のロータリーの端に老婆がうずくまっているのが見えた。まだ午前の早い時間とは言え、夏の日差しが強い中だから心配になる。同時に、なんにも見えないように急ぎ足で通り過ぎて行く人たちに憤慨する。

(まったく情けないな)

そんなことを思ったが、少し前の自分だってだったんだと思うと、なんか不思議な気持ちになる。


「おばあさん、どうしました? 大丈夫ですか?」


俺が声をかけると、その老婆はほっとした表情をした。具合が悪いとか怪我をしてわけではなさそうなので安心した。


「ここは北口ですか?」

「はい、そうですが」

「電車を降りたら、人込みに流されてここに来てしまって。本当は南口に行きたかったんです」


あぁ、満員電車のあるあるだ。よく知らない駅だと、人に流されるままに外へ出てしまう。俺も上京したての頃はよく経験した。


ここから南口へ行くには『南北連絡通路』を通るのが一番簡単なのだが、ここからは少し遠回りで、その通路までの行き方もわかり辛い。


口で説明してその場を去ってしまうのは簡単だが、さすがにそれはできない。それに、この老婆、俺が高校生の時に亡くなったばあちゃんになんとかく雰囲気が似てるんだよね。俺、小さい頃は、ばあちゃん子だったからさ。


「おばあさん、一緒に行きましょう。少し歩くけれど大丈夫ですか?」



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