第21話 安部巡査長

 出演者(イメージ・キャスト)

  百地龍太郎(オーナー) 草彅 剛

  百地静子(テンチョウ) 仲間由紀恵


 店の前に白いバイクが二台、停まる。


馴染(ナジ)みの下谷警察署のメタボ巡査長 安倍信蔵(アベ・ノブゾウ)と片岡哲雄(カタオカ・テツオ)巡査が息を荒げて店に入って来る。


 「いや~あ、この町は忙しい。多摩の方が良かった」


静子は巡査長を見て、


 「あ、ご苦労さまです」


巡査長がカウンターの前に立ち、止り軽く敬礼をする。

片岡巡査が、


 「お世話になります。で捕まえました?」

 「はい。奥の事務所に」


安倍信蔵巡査長が、


 「おお、そうですか。お手柄、お手柄。じゃ、失礼して」


二人は息を切らして事務所へ入って行く。


 事務所では龍太郎が女性の名前を聞いている。

吉松は椅子に座って事務所の中をキョロキョロと見回している。

そこに安倍巡査長達が入って来る。


 「いやー、店長さん災難でしたね」

 「すいません、忙しいところ。参っちゃいましたよー」


持参のケースから「調書用紙」を取り出す安倍巡査長。

片岡巡査は事務所の中を見回している。

安倍巡査長は吉松を見て、


 「で、こちらの男性がドアーを?」


吉松が焦って、


 「オレじゃないよ。すぐ、これだもんな」


片岡巡査がキツい眼差しで吉松を見る。

安倍巡査長が、


 「あ、失礼しました。で、まさかこちらの女性が?」

 「ええ、まあ・・・」


安倍巡査長が俯いている女を見て、


 「どうしたの~。お名前は何て云うの?」


女は黙ってふて腐れている。


 「ああ、別に喋んなくても良いけど、直ぐ分かっちゃうよ。足は大丈夫~」


龍太郎が、


 「安倍サン、足よりも、ウチの店のガラスドアーですよ。それに、僕は咬まれたんですよ」


安倍巡査長が驚いて、


 「カマレタましたか!」


巡査長は調書用紙に書き取って行く。

巡査長は優しく女に、


 「咬んじゃったの? 抵抗しちゃったんだね」


女は一言も喋らない。

巡査長は龍太郎を見て、


 「店長さん、ところであのガラス、幾ら位するの?」

 「以前、ほかの店で車が飛び込んで割られた時、確か・・・十二~三万って聞きましたけど」

 「十二~三万! 結構するんですね」

 「はあ」

 「えーと、被害額、十二〜三万円と・・・」


巡査長は調書用紙に書き取って行く。

巡査長が椅子に座っている吉松を見て、


 「で、こちらの方は?」

 「ああ、手伝ってくれた方ですか」


吉松は頭を掻きながら、


 「いやあ、オレは通りがかったダケッ」

 「失礼ですけど、お名前は?」

 「いいよ、ナマエなんか」


表にパトカーが静かに停まる。

ドアーが開いて二人の警察官が車から降りて来る。

警官Aは割れたガラスドアーを見て、


 「ここですか?」


石田はテープを貼りながら振り向く。


 「ご苦労さんス」


警官Aは石田の奇妙な挨拶に、


 「あ、どうも。・・・で、奥?」


警察官Aが指をさす。


 「そおス」


警官B、


 「そおスか」


店の中に入って行く警官達。

静子はカウンター越しに、


 「あ、ご苦労さまです」


警官Aが、


 「どーも。捕まえたらしいですね」

 「はい。事務所に」


警官Bがガラスドアーを指差し、


 「あそこですか。蹴られたのは」

 「そうなんですよー」

 「災難ですねえ。ちょっと写真撮らせてもらいます」

 「どうぞどうぞ」

 「で、被害届は出されます?」

 「そうですねえ・・・。でもあの人、弁償出来るのかしら」

 「とにかく、中で話を聞いてみましょう」

 「お願いします」


警官達が事務所に入って行く。

事務所では安倍巡査長達二人が女を囲んでいる。

警官Aが、


 「ご苦労さんです」


安倍巡査長達は振り向き軽く敬礼する。

片岡巡査が、


 「あ、ご苦労さんです」


警官A、


 「で、怪我人は居るんですか?」


安倍巡査長、


 「それが、店の経営者が手を咬まれましてね」


警官A、


 「咬まれた? 抵抗したんだ。で、名前は?」


安倍巡査長、


 「完全黙秘です」


警官Bがしゃがんで、


 「アンタ、どこから来たの? 名前は?」


女は貝の様に何も喋らない。

警官B、


 「しょうがない。本署で喋ってもらいましょうか」


女の傍に立つ警官Aが、


 「分かりました。それじゃあ皆で署に行きましょう。と言っても一人車に乗れないなあ」


吉松は焦って、


 「いや、ワシはいいよ。ワシ、あそこアカンのや。もうイイヤロ~。ホナ・・・」


吉松が急いで事務所を出て行く。

龍太郎、


 「あ! ヨッさん、吉松さん。コンロ」


安倍巡査長は吉松の後姿を見て、


 「ヨシマツさんて云うのですか。どこにお住まいで?」

 「そこの公園です」


片岡巡査、


 「ああ、それで」


安倍巡査長も奇妙な形で納得、調書に書き取る。

安倍巡査長、


 「じゃあ、後でお礼でも」

 「あ、そうですね」


吉松が逃げる様にカウンターの前を通り過ぎる。

石田がニヤっと笑って、


 「ご苦労サンっス」

 「おう!」


 ダストボックスの上で『雉トラ』が走り去る吉松を見ている。


吉松と入れ違いに、伊藤が店に入って来る。

石田がまた、ニヤっと笑って、


 「ご苦労サンっス」

 「おう!」

 「忙しいっスね」

 「うるさい!」


伊藤が急いで事務所に入って来る。

事務所で、


 「オナー、怪我は!」


龍太郎、


 「伊藤さん、遅いよ。僕はスーパーマンだなんて言っててさあー」

 「いや、すいません。吾妻橋店でお客さんが倒れましてねえ」

 「ええ!」


龍太郎は伊藤を見て、


 「藤井さんも大変ですねえ」

 「まあ、仕事ですから。で、いま出て行った人がガラスを割ったんですか?」

 「違いますよ。あの方は捕まえるのを手伝ってくれた方です。割ったのはこの女」

 「オンナ?」


警官Aは伊藤を見て、


 「アミーゴの方ですか」

 「あ、ご苦労さまです。アミーゴ本部の伊藤と申します」


警官A、


「最近、こう云うの多いですねえ。だいぶストレス溜まってるのかなあ。じゃ、店長さんと署でお話を聞きますんで」


龍太郎、


 「藤井さん、後をお願いします」

 「え? あ、はい」


警官二人は女と龍太郎と一緒に事務所を出て行く。

安倍巡査長達は壁の貼り紙(決意書)を見て笑いながら、


 「おお! また万引きが増えてますね」


伊藤、


 「ここの店なんか頑張ってる方ですよ。日本堤店なんて体育会系のアルバイトしか採用しないらしいですよ」


安倍巡査長、


 「へ~」


伊藤、


 「あそこの店は、オーナーのお母さんが出入り口で椅子に座って、客を見張って居ます」


片岡巡査、


 「ああ、あのお婆さんはお母さんですか」


安倍巡査長、


 「おお、それは良い」

                     つづく

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