片坂 果(千曲結碧、他)
(D-000)
こうして話を他のひととする機会自体ないから、と言うよりは根本的な問題として寧ろその方が誰も何も変わることが無いからいいかも知れない。そうだったとして、若しも。若しもこんな自意識過剰に虚言癖を装飾させたような法螺吹きの書いた愚痴を続けて聞いてくれるひとがいるのならばやさしく聞いて欲しいと甘えてしまう浅薄さを笑って欲しい。
こちらの世界、つまり今この文面をおってくださっている方々とはまた別の、所謂わたしたちの世界では「まほう」という概念が存在する。平仮名表記なのは語弊が無いようにする為だ。この単語、今迄は「魔」法と表記されてきたが近年になって見直しが行われるようになっており、そちらの世界では問題無いがこちらでは特定の生物が発現させる現象を指す単語でもある為少しでも否定的な文字を当てたりすると差別的とインター・ネットの拡散速度よろしく大声で批判する連中が少なからずいるのだ。
発端は3年前(西暦2021年)に起こった或る裁判での被告の発言が物議を醸した事から始まる。この冤罪事件から始まる一連の戦争を『真法戦争』と莫迦莫迦しくも傲慢に呼称したのは事態を悪化させるに至った大多数の一般市民であるが、この争いは恩恵を齎しもした。
ひとの進化、つまり手段の平等化だった。
まほう少女の存在である。戦争が進むに連れてひとはまほうに適応するようになり、受精時にその胎児が性別指示を受諾出来なくなる代わりに行使可能な迄になった。現在時点では繁殖行為を除いて意図的にまほう少女を創る事は不可能であると言われている(※)が、全人類がまほうを使える事になった以上結果的に差別問題が一部霧散したというのはある意味では行幸だった。そして戦争だけが残り、今に至る。
此れがわたしがしたかった愚痴だった。この消費されきった戦争を終わらせる術はないものかと思っている。と言っても殆ど冷戦状態のようなものなので私生活に特に影響はない。今だって通っている高校の2階、二年B組の窓から見える軍事施設から飛び立つヘリを何の気なしに見ながら欠伸をしている有様だ。慢性的な不安を孕んだ平和が日々を支配している。
要するには退屈だった。別に戦争を今直ぐ再燃させてくれと祈っている訳じゃない、少し、ほんの一寸したデイリイ・イヴェントが欲しかった。
そういった建前で生活すれば、今まで話したことを全部本当にすれば彼は変わってくれたと屹度喜んでくれる、そう思い込む事で救われようとする自分を直視したくないだけのエゴイズムがわたしにはあった。償いをしたかった訳じゃない。ただあのひとのした事を正しいとは言われなくても間違いだとは思われたくなくて、ほんの少しでもいいから遺された歪が報われて欲しかった。
※・・・繁殖法はパートナーの血液を舌の裏にある器官から取り込み子宮へ送られる事で行われる。尚魔法少女は水と砂糖を栄養源としているが、基本的に食事を摂らない(摂ったとしても前記二種以外は体内で純水に変換される)。
片坂 果(千曲結碧、他) @katasaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます