第61話
勇人@Yuto2008
以前に募集した質問にちょっと答えます。
⤷好きな食べ物はなんですか?
⤷昔は卵かけご飯とか好きだったな。
⤷戦った中で一番強かった敵を教えてください
⤷16番目に戦ったエリートが一番強かった。それからは一人になったからよく覚えてる。
⤷どうやったらそんなに強くなれますか
⤷生まれつきかなぁ、それ以外の理由としては戦い続けたからだと思う。
⤷必殺技はありますか!?
⤷無いけど、あった方が面白いよね。作る予定です。
⤷尊敬してます
⤷ありがとう!
…………続きを表示
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「なにしてるんですか?」
「んん、ちょっとサービスをね」
勉強の合間に脳を休ませるついでにポチポチ端末を弄って先日募集した質問に返信していたところ、霞ちゃんがやってきた。
リハビリ配信を無事終了し探索者としても配信者としても見事復帰を果たした彼女がなぜまだ晴信ちゃんの家に居るのかと言うと、割とどうでもいいようでどうでも良くない理由が絡んでいる。
まず第一に僕に家はない。
理由は給料をまだ受け取ってないからで、そこまで国に世話になるつもりはなかったからだ。老廃物とか出ないし、最悪そこらへんの公園で住み込もうとすら思っていた。この考えを霞ちゃんに伝えた時は無理と即答されたが、いまだに冴えた解答の一つだと思っている。
第二に僕と霞ちゃんの主従関係だ。
別に僕らは離れて生活してもなにも問題がないんだけど、なぜか霞ちゃんは僕と離れたくないと言い別居することを拒んだ。なんで?僕にもわからない。ただおそらく大事なパートナーとして、としつこく言い続けたのが悪い方向に作用したんだと思う。
霞ちゃんは無意識に家族を求めていたんだろう。
両親の話もまだ聞かせてくれてないけれど、あんな目に遭ったというのに一度も連絡が来てた様子はない。
姉を探すために探索者になったひたむきな狂気は、そういう部分から構築されたと僕は思っている。
第三に、スケルトンくんの事。
スケルトンくんは研究機関に預けるのもやぶさかではなかったけれど、有馬くんや副大臣の厚意で自由の身とさせてもらっている。自由と言っても、モンスターの見た目をしていて一級探索者とある程度打ち合える強さを持っているので野放しとはならない。
人目を隠せる場所で、と条件が付けられている。
それら全てを満たしたのが晴信ちゃんの提案だった。
だから現代に戻って2週間以上経過した今も、まだ彼女の家に留まっている。
「サービス……?」
「霞ちゃんはもうちょっとファンサービスを覚えよっか」
「う。苦手なんだけど」
「人気商売でファンサービスを忘れちゃあいけないぜ。僕らは彼ら彼女らが費やしてくれるお金でご飯を食べてるんだから」
「なんで勇人さんがそこまで気に出来るかわからないんだけど」
「ふふ、叩き込まれたからね」
富める者の義務とまでは言わないけれど、あの時代を生き抜いた人間ならば誰でも当たり前に身につけている価値観だ。
金も食料も寝床も安全もタダで手に入れられるものではなかった。
社会が破錠した地域じゃ金はゴミ以下の何かに過ぎず、陸の孤島と化した場所じゃあ食料の奪い合いが起きる。寝床の確保すら出来ない荒れた環境でも過ごしたし、時折モンスターによる襲撃が起きる危険地帯での生活で心を壊した人を見てきた。
それまで僕らが当たり前のように享受していたものは、全て誰かが負担していたものだったのだ。
安全は軍人や警官が、寝床は土地を開拓した先人が、食料は農家や酪農家が、金はそれら全てを支える大事なシステムであったと気がついた時には──全てが崩壊していた。
そんな状況下で暮らしてきたものだから、こんな戦いながら人気もお金も貰える夢のようなお仕事をするのは些か心苦しいものがある。
「日常を当たり前だと思うな……そう言ってくれた人がいたのさ」
金持ちが故にそういう視点を持てたのか、彼女自身の気質だったのか。
今となっては知りようがないけれど、僕は勝手に後者だと思っている。
そっちの方が
思慮深く責任感が強く己の人生というものを俯瞰して見ることの出来る女性だった。死ぬ間際ですらエリートを相手に気を引いて見せたのだから、自己犠牲なんて言葉には収まらないくらい強い人だったのは間違いない。
「…………しょ、精進します」
「うむ、是非そうしてくれたまえよ。……と言っても、こんな思いをしなくていいようにと願って戦ってたんだから、それはそれでいいことなんだけどね」
苦笑して話を区切る。
ふとした時に切なくなることはあるけど、日常会話の中で話す程度には問題無くなってきた。
人との関わりがそうさせるのか、それとも少しずつ現実を受け入れることが出来たのかは不明だけどいい傾向だ。いつまでも過去を引き摺り続ける必要はないし、それは僕にとって足枷になる。
いつか僕が何も気にせずただ息をしていればいい世の中になれば、そうしたいけれど────閑話休題。
「それにしても、皆よく見るなぁ」
端末は激しく通知音がなり続け、最早振動がデフォルト状態になっている。
単純計算で20万人が僕の投稿を見てクリックしているのだ。
今の総人口が大体9000万人ほどで、SNSを触ってない年代が存在してないので母数はとんでもないことになっている。そりゃあ配信が主流になるし、探索者が配信をするというトンチキな商売が罷り通るわけだ。
「私もフォロワーたくさん増えたけど、やっぱり何かやった方がいいのかな……」
「うーん、やった方がいいのは確実だ。人気商売ってのは飽きられたらおしまいだし、少なくとも、僕らに興味を抱いてくれる人に対して無関心でいるのはよくないよ」
言ってしまえば、僕らはファンになってくれるもしくはなってくれそうな人たちに対して何かを提供しなければならないのだ。
ありのままの自分を好きになってくれと言うのは簡単。
だが現実はそうじゃない。
それだけで誰かからご飯を食べられる程のお金をもらえる程優しくない。
前述した通りの考えが根幹にある以上、僕は興味を持ってくれる誰かに対して何かを提供してあげようという腹づもりでいる。それが現代にそぐわないものだったとしても、曲げるつもりはない。
「強制はしないけど……」
「う、うぐ……」
そんなに嫌なんだと思いつつ、プルプル震えながら端末を握りしめた霞ちゃんの反応を待つ。
「あ、頭の中ではわかってるけど、どうしても苦手で……」
「無理にとは言わないさ。幸い霞ちゃんはありのままの自分を愛してくれる人が沢山いる。無理にやる必要はない」
「愛してくれるって、大袈裟な」
「人に愛されるのは、才能だ。羨ましい才能だよ」
霞ちゃんは特にリップサービスもせず、ただ淡々と日々を過ごす配信を続けて人気を得た。
それは普通のことではない。
求道者は讃えられるが、その過程に興味は持たれない。
達人を目指してる素人が素振りしているのを毎日八時間近く見続ける人がいるだろうか? 現代においてもそんな人は稀じゃないかな。霞ちゃんにはモンスターを殺し強くなりたいと過ごす毎日を、大勢の人に応援してもらえる愛嬌があったんだ。
「……………………」
「僕みたいに恩着せがましく生きろとは言わない。でも、こういう考え方を底に持っておくことをオススメするよ」
「……はい」
神妙な顔付きで頷いた。
あくまで僕の考えに過ぎないけれど、伝えられる事は伝えておきたい。
彼女をこの道に引き摺り込んだのは僕だ。
この道というのは、50年経っても若いまま寿命というものからかけ離れた生命体になることを指す。彼女は助かったと言ってくれたけど、その厚意に甘えるつもりは無い。
時間は有り余るほどあるんだし、霞ちゃんには僕がいなくても問題なく生きていけるようになってもらうつもりだ。なんなら僕より強くなって欲しいし。
誤解を招く言い方かもしれないが、責任は取る。
霞ちゃんを強くせねばならないし、国に協力できるように聡くしなければならないし、長寿であるが故に訪れる切なさを共有しなければならないのだ。
むむむむ、と眉間を顰めながら投稿する文面に悩んでいる彼女を尻目に、手早くメッセージを送信する。
送る先は関東を担当する一級探索者。
鬼月くんへ、とある内容を送りつけた。
呑気にSNSと格闘する霞ちゃんが、泣きを見るまで後三時間────
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