恋のまねごと。
ユリノェ
恋のまねごと。
人前で手を繋ぐのも、抱き合うのも、なんら不自然に見られることはない。そう、女の子同士なら──
放課後。人の行き交う街。同じ制服。楽しい寄り道、ごく普通のよくある風景。
少し寒くなってきた季節に、触れ合った手の体温は心地良い。これが男の子同士だったら、道行く人たちはちょっとざわざわするのだと思う。
女の子で良かったじゃん、自然で。
そう思える気持ちも嘘ではない。だけど、それって“仲良しの友達”にしか見えていないも同じなんじゃないか。私は素直に喜びきれなかった。
美雪は私のことを好きだよと言ってくれる。でも、私が彼女に思う”好き”と、本当に同じなのかなと時々考えてしまう。告白は私からだった。応えてもらえたのは、彼女が優しかったからなのかもしれない。手を繋ぐことも、ハグすることも、拒まれたことはない。それも彼女の優しさなのだろうか。私たちが男の子同士だったら、果たして同じように受け入れてもらえていたのだろうか。
いつかあなたは他の誰か──男の子を好きになってしまうかもしれない。私はあなたのことしか好きになれないのに。
本音を言うなら、もっと恋人っぽく見られたい。それなら、友達同士じゃしないこと……
繋いでいるのとは別の手で軽く肩を抱き、ゆっくりと顔を覗き込むようにそっと距離を詰めていく。少女漫画の登場人物にでもなった気分だ。ふたりの周りだけ、時がスローモーションになる。
「え……」
消え入るような声と、繋いだ手が離れるのを感じた後、私のもう片方の手も反射的に宙に浮いていた。
「……。大丈夫、美雪の嫌がることはしないよ」
ああ、なんだろうこれ。すごく気まずい、のかもしれない。平静を装ったが、内心は動揺した。やがて冷静になると、いたたまれないような、罪悪感と後悔が滲み出てきた。
初めてこんなに間近で見られたのに、すごく綺麗な瞳だったのに、私が曇らせてしまった。あなたの困ったような、少し安堵が見え隠れしたような顔が、切なかった。
「ううん、嫌とかじゃ、なくて」
私を傷付けまいと気を遣ってくれる。あなたは優しいから。
「紗奈のこと、好きだよ」
「うん、私も。美雪が好き」
その”好き”に、間違いも正解も無い。どちらも正しくて、否定されるべきものではない。だけど私の”好き”は、好きな人を困らせてしまうものかもしれない。
それならば、本物の恋ができなくたっていい。真似事だっていい。
好きな人の笑顔、それが私の一番大切にしたいものだから。だからせめて、あなたが笑顔のままでいられる精いっぱいの方法で、私の”好き”を伝えさせて。
「美雪、ぎゅーってしていい?」
「うん、いいよ」
今日は今までで一番の、力強いハグをした。
恋のまねごと。 ユリノェ @yuribaradise
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます