星の日に君と浜辺で

水無月 月

星の日に君と浜辺で

暗い暗い闇に空から降り注ぐ一筋の光が私を照らしている。

まるで私だけのスポットライト。

誰か私を見て、そんな心の奥底にある野望が声に出てしまいそうになった。

誰かに見てほしい、誰かに私のことを認めてほしい

それは誰にでもある野望だろう。

私はその気持ちが人一倍大きいらしい。

誰もいない寂しい部屋に一人でいると自然と涙が流れてくる。

部屋の窓から空を見上げると一筋の流れ星が寂しい空に流れた。

「行ってみよう」

流れ星の落ちた先に行ってみようそんな考えが頭をよぎり外に出る。

流れ星が落ちた場所それは北にある海。

その海は夜になると誰かが泣いている音が聞こえるという噂があり、

今では誰も近づかない場所。でも今日は誰かがいる気がする。

いつもよりも少し軽やかな足取りで海に向かう。

いつもは音楽を聴くところを今日は夜の静かな空間の中に

入ってくる音に耳を傾けながら海まで歩く。

空間の音が変わってきた。海の波の音が聞こえるようになり、

目的地に近づいていることを告げている。

目的地に着くと海の音以外に人の音が聞こえてくる。

誰がいるのだろうと人影が認識できるぐらいの距離から見る。

儚くもキラキラ輝いているのが分かる、

この人は天性の人から注目される人なんだろう。

オーラに引っ張られるように私はその人に近づいていく。

ざくざくと砂浜を歩く音が静かな世界に響く。

あと二メートル、砂浜に立っていたのは男の人。

こんなに足を都が響いているのに彼は私がいる事なんて

本当に気づいていないのかただ真っ直ぐに海を眺めている。

その姿はこの世のものとは思えないぐらいに輝いていた。

「そこにいるのは誰ですか」

真っ直ぐ海を見ながら彼は私にそう問いかけてきた。

思ったよりも低めの声。 「流れ星の先を見に来た大学生です」

意味の分からない自己紹介をして、彼にも同じ質問を返す。

「僕は彼方」

やっとこちらを見た彼はどこかで見たことのある人、

そんなことに気づかないふりをして普通に彼と話し続ける。

「流れ星の先だなんて変わってるね」

「こんな夜にここにいる貴方も大分変ってますよ」

そんなことを言い合いながら二人でただ海を眺める時間が流れる。

初対面なのにまるで会ったことがあるような落ち着く時間。

「どうして泣いているの」

隣に座っていた彼のほうを見ると静かに泣いていた、

まるで映画のワンシーンの様に。

「ごめん」

謝られたってわからない、そう思ったがなんだかこの人は

世界には自分一人という雰囲気があってその姿が私に似ている気がした。

だからか私はとても彼に惹かれている。

「私はこの時間が終わったらすべてを忘れるんだ、だから話してよ」

この言葉に今まで泣いていた彼は少し笑ってから言葉を紡いでいった。

「僕はね、普段はアイドルをしているんだ。

今はちょっと活動休止しているんだけどね… 」

あれは一年前の事、アイドルを目指してやっとデビューできて

お仕事もありがたいことに一杯させていただいていた時の事だった。

SNS をなるべく見ないようにといろんな人か言われていたのに

ライブ中にあった一つの団扇に書いていたアンチによって見るようになった。

ほんの少しの好奇心と今後の反省用に見始めたのが今となってはすべての始まりだと分かる。いつも自分たちが楽しんでいる姿を見てファンの人たちも楽しんでほしいという気持ちでやっていたのがSNS を見るようになり、

楽しむことなんて忘れていった。

メンバーからも最近おかしいと言われ、休むように言われた。

「僕は大丈夫」

「そんなにやつれて、ふらふらしてる。その体で何ができるんだ!」

そう言われ、反抗し部屋を飛びだしてしまった。

部屋を飛び出した後、頭を冷やすために外に出ようと階段を下っているとき目の前が

真っ暗になり階段から落ちた。

― ― あぁこのままいなくなりたい― ― そう思った。

そんな願いもかなわず目がめてしまった。

目が覚めすとそこは見たことのない天井と独特な消毒の香り。

それだけでここが病院だということが分かる。起き上がると全身が痛い。

起きてから少しすると医師がやってきて状況を説明された。

そこで言われたのは腕の骨折と鬱病になっているということ、そしてそのことを先に知った事務所が無期限の活動休止を発表したということだった。

退院の日、迎えにやってきたのは階段から落ちたあの日に喧嘩をしたメンバーだ。

家までの間、今までのことを話した。

「あの日は言い過ぎた。でもどうしてアンチなんて見たんだ、こうなることは分かっていたことだろう」

「ライブで直接アンチを見てから気になったんだ。でも自分がこんなになってるなんて気づかなかった」

そう本当に気づかなかった。あの日世界からいなくなりたいと思った時までは… 。

「それからここらを休めるためにここに来たんだ」

彼からの話は想像していたものよりも驚きが多かったが一つ私の中で分かったことはこの彼、彼は今をときめく人気アイドルの一人。

私とは別世界に生きている人だ。

誰にも見てもらえず好かれない私とたくさんの人に愛されている彼、

神様はどうして私と彼を引き合わせたのか。

「彼方だっけ、君は愛されてるんだね。心配してくれる人がいて、応援してくれる人がいて、羨ましい」

誰か一人でも自分の事を愛してくれる人がいるならいいじゃないか。なのにどうしてこんなに彼の世界は一人に見えるのだろう。

その理由が知りたくて彼方に質問する。

「彼方は自分の世界には誰がいると思う?」

二人の間に沈黙が流れる。

聞こえるのは穏やかな波の音だけ。

「いないかな、メンバーとかはすごく大切だけど自分の世界には入ってほしくない」

「やっぱり、彼方は私に似ているね。世界には自分一人だと思っているところが」

そうして二人で笑い、砂浜に寝転がる。

なにも気にせずこんなことができるのは今日だけだ。

寝転がると今まで来なかった睡魔がやってきた。

「寝るの?」 上からそう問いかけてくる彼方。

「寝ない、目つむってるだけ」

問いかけにそう返すと「そっか」と返ってきた。

いつの間にか眠っていたのか、辺りが少し明るくなっていた。

起き上がると彼方が海に入っている。

「何しているの?」

彼方に近づいてそう問いかける。

「今日本当は死のうと思ってここに来たの」

「そう。彼方は自分を愛してくれる人に愛を返すことができたの?」

彼方はこちらを向いて笑いながら「出来てないよ、だから死ぬのは止める。僕が愛されていると教えてくれたのは君だよ、ありがとう」と言ってきた。

そんな彼方は相変わらずこの世のものとは思えないほどに美しかった。

「あのさ、また会えない?」

この時間が終わればもう会えない人だ、それでもこの人とはまた会いたいそう思ってその言葉は口から出ていた。

「いいよ、僕も会いたい」

別れの時間が近づいているのが分かる。

暗い穏やかで静かな夜が終わり、明るく慌ただしい朝がやってきた。

「もう行かないと、ねぇ名前教えてよ」

「次会えた時にね」

そう言って彼方より先に浜辺を出る。

「またこの場所で」

後ろからそう聞こえたから振り向かず手だけ振った。

彼方と会えた今日は自分の世界が広がった日だ。

また会えた日には私の世界に彼方が入ってくるのだろう。

家に帰りさっきまでの非日常から日常に帰り、今日もまたいつも通りの平凡な日々を過ごしていく。


また君に逢う日を目指して

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