無力な神

はやかなか

第1話 無力な神

かつて、宇宙が生まれるよりもずっと前のことである。風のように軽やかで威厳を持った言語の神と呼ばれる存在がいた。


神は言葉により万物を創造し、あらゆるものを司り、もはや創造神とすら呼べるものだった。その力は奇跡とすら言いようのないほど力強く、愛と希望に満ちた魔法となって世界に調和をもたらした。


だが、長くは持たなかった。神は自らの言葉の枷に囚われ、自由を失った。彼の美しかったはずの言葉には、いつしか暴力が宿り、その面影は塔に消えてしまっていた。


そこへ賢者が現れて言った。神よ、自らの言葉で、自らを救いたまえ。新たな世界を築くのだ。


神は無力であった。賢者が求めたその力はすでに失われていた。世界は混沌に包まれ、神が復活することはないものと思われた。神は宇宙を彷徨い続け、ただ息をするのみであった。


そこへ、かの勇者が訪れるのは、数百も先のことであった。




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