第二章 蛇に縛られた奴隷たち
12 不審者は見つけ次第110番
外の世界を旅して二日、現在僕たちは森を彷徨っていた。
ただ僕もゼラもキョメちゃんも、それを苦だとは思わなかった。
僕たちモンスターには外魔力があればいいから飢えに苦しむこともない。
喉は渇くちゃ渇くけど魔法で水出せるし大丈夫。
なにより森の中は迷宮とは全てが異なっており、一つ一つが新鮮で、見てるだけで面白い。
前世でいうリスや昆虫に近い形をしたモンスターを観察するだけでも十分に時間を潰せる。
とても充実した二日間だ。
まあそれでも、そろそろ人に会いたいと思ってしまうのも事実。
森を抜け、村とか国とかを見てみたいものだ。
おっと、飛べばすぐじゃんとか言わないでくれよな。
僕の翼は小さいのだ。飛べても最大二分が限界。
ちなみに飛べる高さは二メートル半ぐらい。
中々不便なんだよ。察してくれ。
「それにしても今日は曇りか」
「なんか曇りとか雨ばっかやな」
「梅雨なのか……?」
「梅雨?」
ゼラが体を傾げて尋ねてくる。
ああそうか。梅雨は日本の文化? だからこの世界にはないのか。
口が滑ってしまった。
「雨がめっちゃ降る季節ってこと」
「なるほどな。じゃあ今は梅雨かもしれへんな」
「そうだね」
僕あんまり梅雨好きじゃないんだよな。
ジメジメしてるし、なんかやる気が出ない。
やっぱ雨より晴れが一番だ。
「うん?」
「どしたん?」
「キョメ?」
僕は足を止めて、辺りに耳を傾けた。
うん。やはり聞こえてくる。
「ゼラ、右から何か来る」
「分かったで兄弟」
ゼラと僕は辺りの草むらに身を潜めて、音の正体が現れるのを待った。
数秒経つと、茶色い毛で全身を覆った猪みたいなやつが草むらから出てきた。
「ゼラあいつは?」
「分からん……似たようなやつなら知ってるが、そいつと比べるとサイズが小さすぎる」
「その似たようなやつってのは強いのか?」
「強い、けど今のわいらならなんとか。まあ敵に回したくないな」
「じゃあ、このまま隠れてやり過ごそう」
僕たちは腰を低くして、猪に姿を見られないようにする。
あとは適当に時間が過ぎるまで待てばってなんだ?
「フゴッ……」
突然、猪が目の前で倒れた。
その表情は何かに耐えているようで、とても苦しそうに見えた。
どうしたんだ?
「様子を見てくる」
「ちょ、兄弟!」
僕は猪を刺激しないように、足音を小さくしてゆっくりと近付いた。
そして気が付いた。この猪、怪我をしているではないか。
顔や首元、胸や足の付根などいたるところに切り傷がある。
赤い血を流し、呼吸は荒い。
相当苦しんでいるのだろう。
「大丈夫か? お前」
「フゴ……」
猪は僕を一瞥すると目を閉じ、更に呼吸を荒げた。
これは大丈夫じゃない。重症どころか下手すれば死ぬぞ。
「……暴れんなよ」
猪に手を翳して治癒をかけてやる。
だがかなり傷が深いのか、あまり効いていないみたいだ。
僕だけじゃ無理そうだ。
「ゼラ、手伝ってくれ」
「え?」
「怪我してんだよこいつ。かなり辛そうだ」
「了解」
ゼラは僕の隣へやって来て猪に治癒をかけた。
少しだけではあるが、猪の表情が穏やかになっていく。
「死んだんか……?」
「いや呼吸はある。寝てしまったんだろう」
僕たちは治癒を止めて魔法で水を作り出した。
それをちょっとづつ猪の傷口にかける。
「こんなもんか。傷口は洗ったし、あとは時間がなんとかしてくれるかな」
「優しいんやな兄弟」
「目の前で死なれるのが嫌なだけだ。それに苦しんでたり、消えそうな命があるなら、僕はそれを気付いた者として無視するわけにはいかない」
さてとどうしようか。
このまま森の中を進んで行くのもありだが、流石に傷だらけの猪を放置する事は出来ないし、もう日が傾き始めている。
今夜はここら辺で野宿かな。
「ゼラ」
「分かってる。今日はここいらで休むとするか」
「キョメちゃんもそれでいいか――ってもう寝てるし」
そんな訳で今日の探検はここまでだ。
■◆■◆■◆
夜中、草むらのガサガサという音で僕は目を覚ました。
ゼラたちを起こさないよう、寝る前に作った簡易シェルターから体を出して、眠い目を擦りながら音がなった場所へと向かって行く。
ひょっとしたら新手のモンスターかもしれないし一応の安全確認。
警戒し、身を潜めながら草むらから顔を出した。
「――ッ!?」
そこで僕の目が完全に覚めた。
目の前で白く美しい毛並みをした狼と、黒ずくめの二人組が睨み合っていた。
しかもその狼の背後には、体が一回り大きい別の狼が血を流して倒れている。
状況が読めていない僕はただ静かにして、黒ずくめの二人組の会話に聞き耳を立てた。
「兄貴、どうしやすかい?」
「奥の奴は殺すぞ。あの傷じゃあ長くない。毛を剥いで売り飛ばした方が金になる。手前のガキは生かせ。こっちは豚共のペットにもなるし、適当な奴と交尾させてガキ孕ませたりと、色々使い道があるからな」
「へい。分かりや――」
「――やめろ!!」
僕は自然と声を荒げ、草むらから身を乗り出していた。
本来ならここで姿を現すのはあまりいい判断とは言えない。
なんせ相手は二人、しかも声からして男。それに二人とも身長が180センチほどある。
対する僕は身長100あるかないか。
力の差は歴然。
ただそんな事よりも怒りが勝ったのだ。
「衝雷!」
僕は狼と黒ずくめの二人組の間に魔法を放つ。
二人組の一人は大きく後退し、もう一人は最低限の動きでそれを躱した。
「無詠唱の中級魔法……それに喋る竜。こいつは大金の匂いがプンプンするぜ……」
何か言ってるけど無視。
僕は急いで低級魔法『石塊』を使って、狼の周りに壁を作る。
「お前、何もんだ」
「言わねえよ……あんたたちこそ何もんだ」
「言わねえよ……って言いたいとこだが、俺は親切だから教えてやるよ。俺たちはハンター。金さえもらえればなんでもする輩さ」
「後払いで見逃してくれないか?」
「無理だな」
そう言うと、黒ずくめの一人が僕の眼前まで一気に距離を詰めてきた。
早いなんてもんじゃない。魔法を使っているのだろう。
『
目の前に魔法で水の壁を作り、そこに少しの電気を流す。
「ガッ――」
感電したのか男は膝から崩れ落ちた。
「よし。これなら………」
そこで僕は気が付いた。
もう一人が見当たらない。
「ここだよ!!」
頭上から声が聞こえてきた。
顔を上げると、もう一人の男が丸太のような物を振り上げながら降ってくる。
「おらよ!」
魔法で狼たちを守りながら、僕は右側に飛ぶことでギリギリそれを躱した。
振り下ろされた丸太は、僕が先程いた場所に大きなクレーターを作った。
狼たちは……なんとか守れたようだ。
「ほら兄貴、寝てないで起きてくださいよ」
「いや寝てねえよ。それにしても派手にかましやがって。ダーゲットが死んだら、逆にこっちが金を払わないといけねえんだ。そこんとこ気を付けろよ」
「へい。兄貴」
「んで、小さな竜さんよ。お前さんも俺らのターゲットだ。死なないでくれよ」
男は再度、僕との一気に距離を詰める。
もう一回、水の壁を使いたいところだが、それは対策されるだろう。
ならば正面から叩き潰すまでだ。
「衝雷!」
「なるほどそう来るか。ただ――」
刹那、男の姿が目の前から消えた。
僕は急いで辺りを見回した。
「なめんなよ」
背後から突如囁かれる低い声。
振り向くと、男がナイフを持って佇んでいた。
「マズ――ッ!?」
そこで僕の意識は途絶えた。
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