10 念願のあれ……

 だい――


 ょうだい――


「兄弟!」

「ハッ――あれ? ゼラにキョメちゃん?」


 目を覚ますと、ゼラとキョメちゃんが僕の顔を覗いていた。

 

「よかった……」


 なにやらゼラは涙を堪えているよう。 

 どうしたんだ? 悲しい事なんてあったか?

 そう思いながら、僕は寝ている体を起こした。


「あれ? どうなってんだ?」


 辺りを見渡して気付いたが、どうやら僕たちは更地のど真ん中にいるようだ。

 ふむ。こんな場所が迷宮内にあったとは。

 いやしかしなんだろう。大切な何かを忘れている気がする。

 例えばそうだな、グリフォン的な何かを……


「グリフォン……グリフォン!?」


 僕の絶叫が更地に広がる。

 

「どないしたん? 兄弟」

「キョメー?」


 じゃないだろゼラにキョメちゃん。

 思い出したぞ。あのグリフォンを、僕たちに何があったのかを。

 なんで忘れていたんだ。まあ忘れた方がいい気もするが……。

 それよりもだ。

 僕は急いでゼラとキョメちゃんの体を観察した。


「無事なのかゼラもキョメちゃんも! 傷とか大丈夫なのか!?」

「まあ……この通り無事よ」

「キョメ!」


 ゼラはなんか隠してそうな返事をしたが、キョメちゃんは元気いっぱいに宙で一回転した。

 どうやら本当に無事のよう。

 キョメちゃんなんか吹っ飛ばされた筈なのに傷一つ残っていない。

 ゼラが強力な回復魔法でも使ったのだろうか。


「それこそ。兄弟の調子はどうなんや?」

「僕?」


 そういえば僕もグリフォンに吹っ飛ばされた筈だ。

 ぶっちゃけ死んだと思ったのにキョメちゃんやゼラ同様傷一つない。

 すこぶる元気だ。

 

「大丈夫そうやな」


 ゼラがそう一言。

 しかしどういうことなんだ?

 何故か僕たちの傷は全回復してるし、今気付いたがグリフォンの姿は見えない。

 それにいつの間にか更地になっているこの景色。

 僕が気絶している間に一体何があったんだ。


「取り敢えず、三匹みんな無事でなにより」

「なによりって……」


 まあそうか。

 無事なのは悪い事じゃない。

 おまけにグリフォンがいないこの状況は、悪いどころかお釣りが帰ってくるレベルで最高。

 色々な疑問点は残るが、別に気にしなければいい、のか?

 考えてもよく分かんないだろうし、ラッキーって事にしとこう。

 うん。そうしよう。


「本当よかったよ。全員無事で」

「そうなや」

「キョメー!!」


 取り敢えず、これで僕たちとグリフォンの戦いは幕を下ろした。

 終わり良ければ全て良し。

 正しくそんな感じだな。



■◆■◆■◆



 僕たちは今、この更地内を調べていた。

 あの門にグリフォン。

 僕の前世の知識を用いた脳内コンピュータが弾き出した結果、ここには何らかのアイテムがある筈だ。

 それもかなりのレアもの。

 何故そう思うのか理由は簡単だ。

 ここはゲームで言うところのボスの間。

 あのグリフォンは迷宮内のボス、もしくはそれに近い中ボスだと僕は睨んでいる。

 そういったボスを倒すと、撃破報酬として必ず何かしらのレアアイテムがドロップするのだ。

 だから僕たちは更地を調べている。


「兄弟! これを見てくれ!」


 ゼラそう僕を呼んだ。

 やはりあったかレアアイテム。

 僕はキョメちゃんを抱えてゼラの元へ翼を動かした。

 そして次第に見えてくるレアアイテムの正体。


「――って魔法陣じゃん」


 僕は抱えていたキョメちゃんをゆっくりと下ろした。

 赤い光を発する魔法陣を三匹で囲うようにして眺める。

 

「スキル発動」


 なるほど。これは転移魔法陣と言うのか。

 

「転移魔法陣とは二つで一つの魔法陣。片方を踏むと、そのもう片方に転移する魔法が発動する」

「転移か」

「踏んでみる?」

「いや。何処に転移するか分からん以上、踏まん方がええやろな。転移した先がモンスターの巣とかやったら最悪や」

「それはたしかに」


 ゼラの言う通りだ。

 命あっての迷宮探索。

 死んだら何もかもがお終いだからな。


「スルーするか」

「せやな。キョメちゃんも、これは踏んだらあか――」

「キョメ!」


 ゼラの言葉を遮るくらいの元気な返事を残して、キョメちゃんは魔法陣を踏んで転移した。

 薄々思ってはいたがやはりこうなるのか。


「キョメちゃーーん!!」

「クソッ……やりやがった!」

「ゼラこれって……」

「はぁ……わいらも転移しないとやな」


 そうして僕たちはキョメちゃんの後を追うように魔法陣を踏んで転移した。

 転移先がモンスターの巣でないことを願い、キョメちゃんへのお説教の言葉を考えながら。

 


■◆■◆■◆



 視界が一瞬白く染まる。

 反射的に目を瞑り、少し時間をかけて開いていく。

 すると景色が変わっていた。

 更地から薄暗い一本道へ。


「何処やここ」

「判んない。取り敢えずモンスターの巣ではなさそうだ」

「せやな。そんで、キョメちゃんは何処におるんや?」


 目の前を見るがキョメちゃんの姿はない。

 転移魔法陣の性質上、他の場所に転移するなんて事はないだろう。

 なんせ二つで一つだからな。

 となると考えられる可能性は一つだ。


「先に進んだんじゃないか?」

「それやな」


 僕とゼラが転移魔法陣を踏んだのがキョメちゃんの転移直後。

 多分あんまり遠くまでは行っていない筈だ。


「進むか」

「だね。それになるべく急いで行こう。道の先に何があるか分かんないから、早いとこキョメちゃんと合流したい」

「ああ」


 僕たちは急ぎ足でキョメちゃん探索を開始した。

 勿論辺りに罠があるかもだからスキルでの警戒は怠らない。

 それよりも罠があった場合、キョメちゃんが引っ掛かっていないか心配だ。

 頼むから無事でいてくれ。




 三分ほど時間が経過した。

 ここまで何も起きなかった一本道だったがやっと変化が現れた。

 道の先で何かが淡い光を漏らしている。

 ついでにその光の中に見覚えのある小さな影が。


「あれはキョメちゃんか?」

「間違いない。なんとか見つけれたな」


 僕たちは小さな影を目指して駆け足で歩みを進める。

 そして脳内では何パターンかのお説教の言葉を考えていた。


「おいキョメちゃん。ダメって言った直後からそれを行うとはどういう……こと……」


 影の正体はやはりキョメちゃんだった。

 僕は考え抜いたお説教の言葉を喋っている途中で、目の前の景色に驚愕し何を言おうか忘れてしまった。

 どうやらゼラも驚いたようで、黙って目の前を眺めていた。

 その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 それもその筈だ。

 なんせ淡い光の正体に眼前に広がるこの景色。

 

「うそ……だろ……?」


 風で木々が揺れ、その隙間から月明かりが漏れ僕たちを照らしていた。

 僕たちの目の前には念願の外の世界が広がっていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る