出会う

「ひぃぃぃい!!た、助けて!!いやだ!!じにだぐない!!」


 今日も今日とて相変わらずのざまぁムーブをする俺。

 今日の奴らも気持ちのいいくらいのクズっぷりだった。なんでこう冒険者ってのは傲慢な奴らが多いのか。

 目の前で蜘蛛の魔物達の糸に吊るされて、腹に腕を刺されて今にも内臓を引き摺り出されそうになっている女冒険者達。いやちょっともう出てるな。

 身の丈に合わない依頼を受けるからこうなる。一応ベテランとして忠告はしたんだけどな。

 そして俺は相変わらず死んだ振りをしながらそれを眺めている訳だが…。

 今日はいつもと違うことが起こる。

 いつものようにパーティーメンバーが死ぬ寸前で立ち上がり、魔物の後ろからいやらしい笑みで見て更に絶望させてやろうとしたその時だった。


「おりゃあああぁ!!」


 女の馬鹿でかい声が響くと同時に女を掴んでいた蜘蛛の魔物二つに裂かれ吹き飛ぶ。


「もう大丈夫だ!!マリア!回復を!!」


「ええ!わかった!!」


 そこには幅が五十センチ、ニメートルを超える刀身の剣を右肩に乗せ構える、白銀の鎧を纏った凛々しい女の戦士が立っていた。長く美しい金髪を一つにまとめ、見事に整った顔を持つ長身の美女。まるでお伽噺から抜け出した戦乙女のようだ。

 マリアと呼ばれた女は、蜘蛛にやられた者たちの怪我を癒やしていく。

 純白のローブを身に纏い、白銀の髪は長めのショートボブ。これまた少し幼めだが美しい顔を持つ、まるで聖女そのものだ。


「こちらのことは任せて思いっきりやりなさい!レイ!」


「わかった!!」


 レイと呼ばれた女戦士は、うおお!!と叫びながら蜘蛛の魔物達をバッタバッタと斬り伏せる。反撃を受けてダメージを負うものの気にもとめない。

 蜘蛛の魔物の数も減ってきた頃、回復が終わったパーティーを逃がすと、マリアという女も前に出る。


「もう。ダメージ貰いすぎ」


 そういうと瞬時にレイという女のダメージを回復する。


「すぐに治して貰えるんだからいいだろ?」


 傷が治るとその場から弾けるように飛び出し、蜘蛛の魔物を次々に倒していく。

 マリアという女も同時に魔法による攻撃を飛ばし援護する。

 たった二人とはいえ連携に無駄がない。相当な練度なのだろう。

 だが、あのレイとかいう女の戦い方は少し気になるな。あれ程の実力があるにも関わらず何故か攻撃を避けない。なんならわざと当たっているような気さえするな。

 俺は死んだ振りをやめ、瞬時に気配を消して見やすい場所に移動しレイという女を観察する。そして、顔を見た瞬間すべてを悟る。

 笑っているのだ。ダメージを喰らう度に。そしてその笑みは恍惚の表情というべきか。蜘蛛の魔物の攻撃を喰らう度に小さく嬌声を上げている。しまいには蜘蛛の魔物の足が肩当ての隙間から肩に刺さった時に、一瞬腰を震わせると、アッ!!という声と同時に身体をビクビクと痙攣させた。

 あいつやばいな。戦いながら何度もイッちまってる。俺とは違うタイプの変態だ。しかも、しっかりと全部倒しきった。


「あ〜ヤバい。もうこれ以上は身体がもたないわ」


 レイという女が剣を支えに下半身をガクガクさせながらそう言うと、呆れたというようにマリアという女が近付き、治療するから鎧を脱ぐように促す。鎧を脱いで肩を見ると貫通はしていないものの深く刺さっただろう傷が。

 回復魔法を使う前にマリアという女がマジマジと傷を観察すると、あふっ!という声と共にスカートの上から股に手を当て挟み込む。


「あ〜!いい!いい傷!!痛かった?どんな気持ち?指入れてもいい??」


「……ちょっとだけだよ?」


 いやいや、どっちもおかしなこと言ってるんですけど。いや、本当に指突っ込んでるし。


「ん……あっ!!」


 いや変な声出してるけど!グチュグチュ音出してるけど!それ違う穴だから!それで両方悦んでるとかなんなの?何見せられてんだろ?これ。


 しばらくすると、満足したのか回復してそのまま帰って行った。今の街に住んで長いが見たことがないやつらだったな。あれ程の実力と変態性なら見聞きすることもあるだろうに。

 おそらくレイという女は勇者のスキル持ちだな。勇者のスキルは二種類しかない。勇者か勇者(蛮勇)のみ。どちらも能力は高いが蛮勇の方はどちらかというと勇ましい者みたいな感じ。ただの勇者は蛮勇より能力が異常に高く、よく聞く伝説の勇者とかそういう類のチートだ。俺でも過去に一人しか見たことがない。やつも能力がチートだった。


 マリアという女の回復力はおそらく聖女のスキルだろう。聖女もいるにはいるが珍しい。スキルは勇者と同じで二種類しか確認されていない。聖女(慈愛)か聖女のみ。どちらも大差はなく、回復や聖魔法が得意で魔力が多い。噂では慈愛の方が優しいとかいう抽象的な感じらしい。


 邪魔されて萎えてしまった息子をどう発散させようか考えつつ帰路につく。あの二人のせいだ。気に入らない。少しあの二人の事を調べてみるか。

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