条件

 あれからざまぁを見るために冒険者を続けているのだが、別にざまぁが性癖となった訳では無い。

 なんというか堪らない感覚になるのだ。その後に売春宿で抜くと快感がヤバい。だが、性癖ではない。決して。多分。


 ざまぁで興奮する条件が存在する。

 傲慢な奴がいるパーティーで無ければ基本的にはざまぁとは言えないのでこれは絶対。

 パーティーメンバーもクズが揃っていればなお良い。パーティーメンバーの中に良い人がいると萎えてしまう。

 男女に違いはなく、悲惨な目にあえばあう程興奮する。ただ、ここ数年は回復魔法を極めたことにより、極力死者を出さずにざまぁできているので罪悪感もあまりない。まあ、最初からないけど。


 二十三年の間に何度もざまぁを繰り返し、そのほとんどが解散するという事態に陥ってしまった為に、生還の死神なんて呼ばれてしまっている。

 俺が同行すれば危機にあって死にかけることはあっても、回復魔法により必ず万全の状態で戻れるから生還。精神は治らないから引退して解散しちゃうから死神。俺が回復魔法を使えることは隠しているが。

 そんな二つ名がついているにも関わらず、パーティーに誘ってくるやつは多い。危険なダンジョンや魔物狩りからほぼ確実に生還できるという噂があるのだから当然か。誰も死にたい訳では無いからな。

 

 今日もそういうやつが声を掛けてくる。


「おい。おっさん。噂は聞いてるぜ。このA級パーティー、ゴルディオンハンマーの荷物持ちにさせてやるよ」


 見た所、剣士二人に魔法使い、補助魔法師のパーティーだな。どこにハンマーの要素があるのかわからんが、とりあえず全員傲慢そうなのでついて行くことにした。

 今回は魔物被害の調査だ。近隣の村や町に被害が出ているらしいので調査し、必要なら討伐するようだ。大した依頼ではないように思えるが、何故かA級指定になっている。

 早速、被害の出た村に向かう。


「おい、おっさん!早くしろよ!!」

「ホントにトロいわね!」


 リーダーの剣士、トラオージ・イガと女魔法使いが大量の荷物を背負った俺を急かす。


「は、はい!申し訳ないです!」


 本当は大して重くはないのだが、わざと遅らせてイライラさせる。常に腹に詰め物をして中年太りに見えるようにしているので、殊更トロく見えるのだろう。こういうのもざまぁのスパイスとなるのだ。

 散々鈍臭いアピールをしたことで、パーティーメンバーも程よく俺のことを見下してくれているようだ。いい。いいね。その顔がどんな風になるのかが楽しみだ。


 村に着いてしばらく調査をすると、痕跡もあちこちにあり、簡単に魔物を見つけることができた。

 足跡からオークとオーガの混成部隊のようだと推測できる。パーティーもそのように考えたようだ。

 もっと言えば魔力の残滓を観察すれば更に上位種が数体混じっていることに気付けたはずだ。だが、気付いていない。いくらA級とはいえ上位種が数体混じっていればこいつらには荷が重いだろう。ざまぁチャンス!!


 足跡から巣を見つけ外から様子を見る。

 自ら掘ったのか粗く削られた広めの洞穴だ。これは普通に考えれば罠だな。

 一応警戒しつつ洞穴に入って行く。全員が入りきった所で後ろからゴロゴロと大きな音がした。振り返ると入口が塞がれていた。


「!?明かりを!!」


 リーダーがそう叫ぶと魔法使いが魔法で辺りを照らす。すると目の前に魔物の群れが現れる。オークとオーガ、ゴブリンの混成部隊だ。

 瞬時に剣士二人は魔物に斬りかかる。そのタイミングに合わせて補助魔法師が補助魔法をかける。オークやオーガは瞬く間に数体倒れ込んだ。そこは流石にA級か。

 だが、快進撃もそこまで。奥から上位種が出てくると全体の動きが止まる。


「な……!ありえねぇ!!オークとオーガのジェネラルが同時になんて……!」


 パーティーメンバーの誰かがそう呟いた。

 無理もない。魔物は徒党を組んでいることはあるが、より強い方が従える。今回はオーガの方が強いので当然オーガが従えていると思われた。指揮系統が混乱してしまう為ボスは複数必要ない。つまり、上位種がいてもオーガの方しかいないと思ったわけだ。

 それが両方いるということは更にそれを従える存在がいるということ。そのことは分かっているのかいないのか。

 しっかりと周りを警戒しつつジェネラル達の相手を連携して行う。他のオーガやオークも相手にしながらなのでやっかいだ。


「おい!おっさん!!てめぇも手伝えや!!」


 そう剣士が喚く。

 おいおい。俺は何も出来ないという体で荷物持ちしてんだよ。


「い、いや。俺は荷物持ちしかできないので…」


「ちっ!!何が死神だよ!役立たずの疫病神じゃねえか!!」


 魔法使いの女がきつい言い方でこちらを罵る。

 いいね。こういう奴が魔物に犯されるのを見てざまぁするのも興奮する。

 まあ適当に逃げ惑うふりして隠れるか。

 しばらくすると更に奥から何かが出てくる。コツコツと足音を立ててゆっくりと出てきたのは、頭に角のある人間。背はそれ程高くはないが、褐色の肌に短髪の女。そして濃密な魔力。明らかに魔族だ。俺が見るに低級だな。

 魔族がゆっくりと歩く様を戦闘中にも関わらず凝視してしまうパーティーメンバー達。

 彼らからしたら重厚で凶悪な魔力を放つ化け物にでも見えているのだろう。それ程に魔族は別格の存在だ。


「じ……冗談だろ?この疲弊している状態で魔族相手にしろってか?!」


 まるで疲れていなければ勝てるという言い方だ。      

 まぁ何度か経験はあるのだろうとは思われるが、俺の見立てではこいつらが全快でも厳しいだろうと思う。

 リーダーではない剣士の左腕が宙を舞う。彼らからしたら一瞬の出来事だろう。


「ぎゃああああ!!」


 腕を抑えながら悲鳴を上げて倒れ込む剣士。あまりの痛みに気を失ってしまったようだ。失禁までしている。

 俺は顔が緩んできたことに気付き、手で顔を抑える。

 続けて魔族は魔法使いに魔弾を飛ばし攻撃。魔法使いはその攻撃に気付いていない。ありゃヤバい。食らったら頭吹っ飛ぶな。別に死ぬのは構わんがざまぁできなくなるのは面白くない。

 俺は手を握り親指に魔力を乗せて弾く。気付かれないように魔力を飛ばす技だ。指弾とでも呼ぼうか。やるねぇ。やるもんだねぇ。

 指弾で少し魔弾の進行方向をずらし外す。少し掠って左耳が消し飛ぶ。


「いやあああぁぁ!!」


 痛みと恐怖で左耳を押さえながら叫ぶ魔法使い。

 すごくいい!!あぁ興奮してきた。


「おかしいな…。外す訳ないのに……」


 外れた原因を探るようにキョロキョロする魔族。

 まずいな。このままではバレてしまう。

 咄嗟に足元にある石を拾って少しの魔力を纏わせる。


「こ、このぉ!!」


 雑魚っぽく声を上げてそれを魔族に投げつける。当たっても大した威力はないが、それを見て怪訝そうな顔をする魔族。


「こんなので邪魔できるか??まぁいいや」


 そう言うと魔族は俺の目の前に瞬時に移動し、腹に蹴りを入れる。ハッキリ言ってダメージはゼロだが、大袈裟に後ろに跳びわざと壁に激突して死んだふりをした。完全に気配を消して薄目で状況を楽しんでやる。


 A級なだけあってしばらく抵抗を続けていたものの、魔法使いが早々のリタイア、補助魔法師も割と早めに戦闘不能となってしまった為に満身創痍の剣士一人ではどうしようもなく倒されてしまう。

 そして魔族は四人を拘束し、服を弾き飛ばし、四肢を魔法で吹き飛ばした。


「「「「ぎゃあああ!!」」」」


 四人の悲鳴が響く。更に腕を微妙に回復し止血した。

 俺は完全に気配を消しているし、隙を見て魔物の死体の影に隠れていたので忘れられている。と思う。


「馬鹿だなぁ。人間は。」


 魔族はそう言うと一人ひとりに触っていく。

 あぁ、こいつ能力を奪えるスキル持ちか。能力といっても魔力なのか膂力なのかはわからないが。

 奪い終わったのだろう。魔族は自分が奪った能力を馴染ませるかのように目を瞑り恍惚の表情を浮かべる。


「流石にA級だね。剣士は微妙だったけど他の二人はかなりの魔力だ」


 どうやら魔力を奪うスキルだったようだな。


「このためにわざわざギルドにA級指定で依頼を出したんだ。ノコノコと来てくれた君たちには感謝しないと」


 魔族はチラリと魔物達を見ると顎で合図をする。


「もういいよ。苗床にしても」


 絶望に顔を歪めていた四人は更に顔を歪める。

 オーク、オーガ、ゴブリンは生き物の穴さえあれば苗床にできてしまう魔物の中でも特殊な魔物である。なんでも体内で受精卵を生成することができるから雄しかいないとか。なんでも木の洞からゴブリンが産まれたこともあるとかないとか。

 兎に角、生きていて穴さえあれば何匹でも産ませることができる。人間は無駄に生命力も高く、大きさ的にも最適なのかよく狙われる。


「結構減らされちゃったけど、このくらいならすぐに戻るどころか増やせるね」


 魔物達がアレをギンギンにしてパーティーメンバー達に近付く。

 絶望に顔が歪み、魔法使いは恐怖から小便を垂れ流す。

 あぁ…いい!いい顔だなぁ。今日も気持ちよくなれそうだ。


 男も女も関係なく、穴という穴を犯される。


「ぎゃああぁぁぁ!!」

「やめてぇ!」

「そっちはぁ!そこは違う!!!」

「痛い!!いだぃぃい!!!」


 次第に全員の穴という穴から白濁色の液体が溢れ出し、誰も一言も発しなくなる。これ以上見ていても何もなさそうだ。頃合いだな。

 俺は魔物達の背後に立つ。リーダーの剣士、イガと目が合う。


「な…なんで…?」


 蹴られて吹き飛ばされた所を見ていたイガは俺は死んだと思っていたようだ。

 俺がニィっと笑うとパーティーメンバー達は縋るような目で見つめてくる。


「おい!!おっさん!!生きてんならさっさと助けろよ!!」


 人の顔を見るなり命令口調。いいね。


「助ける?助けてどうするんです?液体まみれの達磨を四つも抱えて帰れと?そもそもこの魔物の群れの中を?魔族までいるのに?」


「ぐっ…!」


 因みに魔物達はこの間大人しくしていた。いや、させていた。圧倒的な魔力の圧をかけることで。


「待ちなよ。人間のくせになんなの?お前?」


 魔力の圧を物ともせず魔族が前に出てくる。


「そもそもお前さっき殺したはずだろ?!」


「あ〜いい、いい。もうお前必要ないから帰っていいよ」


 狼狽する魔族に俺は軽く言い放つ。すると、怒った魔族は俺に全力の炎魔法を飛ばす。その魔法を手で払い、消滅させて見せると更に狼狽して地団駄を踏む。当たっても効かないんだけどね。


「何なんだよ!お前ぇ!!」


 そう言って魔弾や物理攻撃をしてくる魔族に見向きもせずにパーティーメンバーをニヤけながら見下ろすと、全員の顔が恐怖に慄く。魔族にではなく、まさかの見下していたおっさんにだ。

 俺はイガの髪を掴み、持ち上げると恐怖に染まったイガと目を合わせ、にこやかに笑う。


「い〜い顔だなぁ。そういう顔が見たかったんだよ。ありがとね」


 そのままイガを地面に落とすと、ずっと攻撃を続けていた魔族の頭を指弾で吹き飛ばす。統率していた魔族が死んだ瞬間に魔物達は恐怖から逃走を開始する。だが、一匹残らずに魔法で殲滅した。

 こうした方が『俺本当は強かったんですよ』アピールが際立つからな。

 その状況を見て虚ろな顔をしているパーティーメンバー達に回復魔法をかける。失われた四肢が元通りになり素っ裸のまま座り込む。

 俺はそんなパーティーメンバーの荷物をその場に放って帰路についた。そのまま売春宿に直行してお気に入りの嬢相手に発散しまくった。


 その後、ゴルディオンハンマーは解散して全員が故郷に帰ったそうだ。それなりの実力はあったけど運がなかったな。

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