ざまぁ趣味なおっさん冒険者の歩く道
タカサン
ざまぁ覚醒
二十三年前、カメリア王国首都トンワンシ
成人となる十五歳となった俺、ナカタ・カムリは心を弾ませながら冒険者ギルドの扉を開く。
魔物災害により、幼い頃に両親を亡くした俺は孤児院で育った。
教会が運営している孤児院なので、成人になれば教会に属し、神に一生を捧げるなんてこともできたのだが、そんなのはお断りだ。
自由に生きて、自由に死ぬ。そんな生き方に憧れた。
そして、その一歩をようやく進もうとしている。
ギルドで登録を済ませると、早速パーティーを探し、中堅C級の少人数パーティーに所属した。
剣士、格闘家、魔法使い、回復士の男三人と、女一人のパーティーだ。パーティーの名前はもう忘れた。
見習いとして荷物運びをしながら、魔物討伐やダンジョンに潜ったりして経験を積む。
たまに前衛で剣士として戦わせて貰ったり、斥候として働いたり、毎日特訓に明け暮れたり、着実に実力をつけてきた。
パーティーに加入して三年、B級になったパーティーにギルドから単独でダンジョン調査の依頼が入る。
この世界のダンジョンは自然発生よりも魔族が何かしらの拠点として作ることが多く、今回は魔力の傾向からその可能性が高いので調査の依頼というわけだ。調査と言っても実質はダンジョンマスターを倒してダンジョンを消すまでが仕事だが。
俺達はダンジョンに向かった。
魔法使いが探知の魔法でダンジョンを調べる。深さはあまり無いようだった。
当然、魔族が拠点として使うであれば最奥まで何日も掛かるダンジョンなど作らないだろう。
途中で襲い掛かってくる魔物をいつもと同じように連携して倒して進んでいく。
順調に進み、もうすぐ最奥かと思われた矢先それは現れた。
人型の魔族。
身体は優に2.5メートルはあり、筋骨隆々でまるでライオンのような髪に二つの大きな角。その身体には執事の着る燕尾服の様な服を纏っていた。
「フフフ。動きが早い。もう嗅ぎつけるとは」
低い声で言葉を発した瞬間、パーティー全員が身構える。
「フム。そこそこにはできるみたいだ」
そう言いながら物凄い魔力を迸らせる。
それはパーティーメンバーは疎か配下である魔物達まで震えさせるほどであった。
あまりの力量差を感じた格闘家は一歩後ろにたじろいだ。
その瞬間、砂埃が舞い格闘家が後ろに吹き飛ばされ、壁に激突し、血反吐を吐き倒れ込む。
何が起こったのか分かっていないパーティーメンバーは呆気に取られ、立ち竦む。
「な、なにが……?」
剣士がそう呟き、砂埃が舞った所を見ると格闘家の元いた場所に魔族が立っている。
「フム。一撃では死にませんか。やはりそこそこやりますね」
自分の拳を眺め、格闘家の様子をチラリと確認し、剣士の方を見た。
「ひっ、ひぃぃ!!」
俺がこのパーティーに入って初めて見る剣士の怯えた様に、他のメンバーも萎縮し、戦意を失う。
俺も例外ではなく、構えを解くことはないが死を覚悟していた。
その時、背中に物凄い衝撃が走り、魔族の近くまで飛ばされる。
後ろを振り向くと剣士が俺を蹴飛ばしたようだ。
「よし!今のうちに逃げるぞ!!」
いつの間にか回復士に回復されていた格闘家と共にパーティーメンバーが出口に向かって走り出す。
「フフッ!アハハハ!!いい!!面白い!!人間というのは!!」
どこか呆れたように、だが、心底面白そうに魔族が笑う。
そして瞬時に俺の前に移動し、俺の腹に拳をめり込ませる。あまりの衝撃に壁に叩きつけられてそのまま倒れ込んだ。
常に鍛え続けてきたおかげか、本気ではなかったのかは分からないがなんとか反応できて致命傷は避けたものの、大ダメージなのは変わらない。そのままピクリとも動かないでいると、死んだのかと思ったのか魔族はこちらを振り向くことなく出口へと足を向ける。
それを見送りしばらくしてから、あまり得意ではない回復魔法で回復を試みる。肋骨は何本か折れているっぽいが内臓などに損傷はなさそうだ。全快とはいかないが動けるまでには回復できた。
壁に手をかけながらゆっくり出口に向かうと程なくして声が聞こえてきた。
「やっやめてくれ!!頼む!見逃して…!」
剣士が魔族に捕まり頭を鷲掴みにされ、持ち上げられている所を目撃する。
周りには見るも無惨なメンバー達の死体が転がっている。
「フフッ。逃がしてなんのメリットがあるんです?」
魔族はそのまま力を込めると、ゴシャッという音と共に頭を握り潰すと、だらんと手足をぶら下げた剣士をそのまま地面へと落とした。
そしてこちらに視線を向ける。
「おや?おかしいですね…。本気ではなかったとはいえ死んでないとは……」
魔族が近付いて来ているにも関わらず、俺はパーティーメンバーから目が離せないでいた。それは仲間が殺られたとかそんな話ではない。
そう。ざまぁだ。俺を囮にしてまでこれか?ざまぁみやがれ!という歓喜にも近い感情が湧き上がる。
三年も共にしたというのに惜しむという感情も一切なかった。
そして、その様子を見た魔族は腹を抱えて笑い始めた。
「フッ!アハハハ!!人間とはここまで!!ハハハ!!」
何に対して笑っているのかわからなかったが、メンバーの死体に近付き見下ろした時、異変が起こる。
股間がビクビクと脈打ったのだ。
これはあれだ。射精しているのだ。
この状況に興奮しているのだ。
恐らく、魔族の圧倒的な強さを目の当たりにしたせいで生存本能が働き勃起していたのだろう。それを見て魔族は笑っていたのだ。
さらに裏切ったメンバーが無惨な死を遂げ、その様を見た時得も言われぬ感覚に襲われ射精に至ってしまった。
ヌルヌルになって湿ってしまった股間を両手で押さえつつ魔族を睨みつけると奥に歩いて行く。
「フム。まあどの道あなた達が戻らない時点で異変に気付くでしょうし、今回は引きます。面白いものも見れましたしね。見せしめにもなるでしょう」
そう言いながら奥に消えた魔族を見送ると、俺はその場にへたり込む。次は小便を垂れ流していた。
遺品を回収し、ギルドへ報告をすると一気に慌ただしくなった。
報告から恐らく魔族の中でも上位に位置する者だと推測、討伐隊が結成され向かったものの、ダンジョンが消えていたそうだ。
あれから二十三年。
三十八歳になった俺は今も冒険者を続けていた。
相も変わらず荷物持ちとして、そしてまたざまぁの瞬間を見るために。
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