今宵の出会いは如何程に?

色葉みと

今宵の出会いは如何程に?

 ハロウィン。それは、あちらの世界とこちらの世界が繋がる日。


「さて、今宵はどんなものになるかな? ……おや、あの娘——」




「うっわー! 人とお化けがすごいたくさんいるね!」

「ね! 来た甲斐あったでしょ?」

「そうだね! 誘ってくれてありがとう!」


 今日は十月三十一日、ハロウィン。私は友達の奈緒なおに連れられて、日本でも有名なテーマパークに来ていた。

 周りは、人、人、お化けでぎっしり。

 今日は人ととの見分けがつきにくいな。……まあ、大丈夫か。


瑠花るか! パレードが始まるよ! 行こ!」

「うん!」


 はぐれないように奈緒と手を繋いで、なんとか最前列まで来ることができた。しばらくすると、軽快かつ不気味な雰囲気の曲が流れ始めた。

 あ、この曲知ってる。SNSで話題になってる曲だ。

 左からゾンビ、ピエロ、魔女、狼男、ゴースト、ヴァンパイアなど、さまざまなお化けたちが歩いてくる。

 すごい、歩き方とか表情とか、人じゃないみたい。

 仮装してお化けに人に向ける言葉ではないだろうが、そう思った。


「きゃー!」

「かっこいー!」

「こっち向いてー!」


 突然、嬉しい悲鳴があちこちから聞こえて来た。


「奈緒、これはいったい——」

「かっこいい……!」


 奈緒も……。なんだろう?

 悲鳴を上げている人たちの視線は一点に集中していた。それは、赤を基調としたヴァンパイアのお化けだ。

 なるほど。あのお化けは確かにかっこいい。だけどね、そのお化け、だよ? どう見ても。

 ……がどうしてパレードに? 他の人にも見えてるのはなんで? 分からないことはたくさんあるけど、まあいっか! 襲ってくる様子もないし。




 あー、パレード楽しかった! んだけど、奈緒とはぐれました! どうしよう? じっとしてるのも時間がもったいないし、ぶらぶらしながら探すか!


「……瑠花」


 誰かに話しかけられた?


「……瑠花」


 やっぱり話しかけられてる。声がする方向を向いても、誰もいない。


「こっちですよ」


 ……私を呼んでいる。行かないと。

 魔法にでもかかったように、私の足はその声がする方へ歩き出した。


 気づいたら、誰も居ないところに立っていた。遠くからがやがやとした音が聞こえてくる。薄暗く、不気味なところだ。

 ここ、どこだろう? パーク内だよね?


「よく来てくれましたね」

「っ!」


 闇の中から、パレードできゃあきゃあ言われていたヴァンパイアが現れた。

 ……だ。逃げたほうがいい、よね?

 私はヴァンパイアに背を向けて駆け出した。


 ドン!


「痛っ」


 私は真後ろに居たはずのヴァンパイアにぶつかった。


「逃げないでください」

「後ろに居たはずじゃ……?」


 あ、だからそういう術? も使えるのか。あー、なるほど。そういうことね。うん、逃げても無駄だね。

 怖いはずなのに、なぜか落ち着いて状況を分析している。なんだか笑えてきた。


「……ふふ」

「……あの、大丈夫ですか?」

「ふっふふ、ごめんなさいっ。この状況に笑えてきまして」


 ヴァンパイアは驚いた表情をした。

 この人、話が通じる系ヴァンパイアかも?


「すぅ、はぁ。……よし。あの、私をここに連れて来たのはあなたですか?」

「ふふ。俺はリュート。瑠花が察している通り、のヴァンパイアです」

「……名前」

「ああ、瑠花のお友達がそう呼んでいたので。違いましたか?」

「……合ってます」


 このヴァンパイア、リュートさんはどうしてこんなににこにこしてるんだろうか? 何考えてるんだろ? っていうか、私はなぜここに⁈


「それはよかった。疑問に思ってるようなのでお答えしますが、瑠花をここに連れて来たのは、俺と遊んでもらうためです」

「……何して遊ぶんですか?」


 ボードゲーム? スポーツ? それともスマホゲーム?


「……そうですね」


 リュートさんは何かを考えるそぶりを見せた。

 決めてなかったの?


「……そうだ! 飛びましょう!」

「飛びましょう?」

「はい、空を飛びましょう!」


 空を? いやいやいやいや、それはさすがに無理があるでしょ。あ、でもリュートさんはだからできるのか? そうか、そうだね。あれ? 私は?


「……私はどうやって飛ぶんですか?」

「ふふ、それはもちろん……」


 リュートさんはそう言いながら私に近づいて来た。

 そして私を抱えた。


「わっ」

「こうしますよ」

「……これは物理的なんですね」

「はい。では、飛びますよ」


 リュートさんと私はふわりと宙に浮いた。だんだんと高度が上がっている。


「おー、浮いてる」

「あまり驚かないんですね。……あ、そうだ」


 どこか不服そうに言ったと思ったら、突然上昇するスピードを上げた。


「え⁈ ちょ、リュートさん⁈」

「これは驚くんですね」


 なんか楽しそうに言われた……。


「ほら、下を見てみてください」


 言われるがままに下を見てみる。テーマパークの色とりどりの光や人、お化けが小さく見えた。


「わぁ、すごい……! パークの地図通りだ……!」

「ふふっ、感動するポイントそこですか」


 それから私たちはしばらく空を飛んでいた。




「ありがとうございました! すっごく楽しかったです!」

「ええ、俺も楽しかったですよ。……ハロウィンの夜はまだ始まったばかり、くれぐれも気をつけてくださいね。では、またいつか——」


 リュートさんがそう言ったと思ったら、だんだんと、薄暗く、不気味なところが遠のいていく。もちろんリュートさんも……。


「……あれ?」


 気づいたらもといた場所に戻っていた。


「瑠花ー! 探したんだよ!」


 奈緒がこちらへ駆けて来た。


「……奈緒。心配かけてごめんね!」

「ううん、お互い様だよ! あ! あのアトラクション人が少ないよ! 行こ!」

「うん!」


 リュートさん、また会えるかな? 会えるといいな。




 瑠花が奈緒と合流した後。


「きちんと戻れたね? よかったよかった。俺のを付けたから、瑠花に手を出す奴はそうそう居ないだろうけど。……やっぱり完全に居ない訳ではないんだよねぇ。ねえ、そこのゾンビ君?」

「……グガァ」


 ザシュ!


 リュートはゾンビに一瞬で近づいて、どこからともなく出した剣で一刀した。


「さて、次行きますか」


 そう言って、リュートは闇に消えて行った。

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今宵の出会いは如何程に? 色葉みと @mitohano

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