第30話 茶席の闖入者

「エンゲージブレイク!!」

「ぐわああああ――――っですわんーっ!!」


 悪役令嬢は空中で爆散して全裸になり、真っ逆さまに落下していく。彼女の名は……なんだっただろうか。


 そうだ、ポメラニアン令嬢だった。

 つい先日に氷狼令嬢を倒したユーリにとって、ポメラニアンは敵では無かった。


「ふう……」

「お疲れ」


 俺はユーリに労いの言葉をかける。


「最近、襲い掛かって来る悪役令嬢多いな」

「だよねー」


 ここ数日連戦である。まあ戦って勝つことは俺たちの目的に合致しているから、望む事ではあるが。


「で、ですけど毎日これだと……大変ですよね、特にフィーグ様が」

「そうなんだよなあ」


 アイネの言葉に俺は肩をすくめる。

 別に俺自身が直接戦うわけではないが、俺の矜持として、女の子だけを戦わせるのには抵抗がある。

 この世界の普通の感覚では、女の戦いに男がでしゃばるな、男は黙ってすっこんでろ、というのが当たり前なのだが、こればかりは両親の教えだ。

 校則でも認められている事だしな。王立魔法学園校則第四条補足、決闘には魂約者も同席し戦う事は許される。というやつだ。


「これから準備もしないといけないしなあ、季節だし」

「? なんの季節なんです? 繁殖です?」

「違うよ?」


 フェンリに俺は言う。


「クルスファート王立学園新入生歓迎茶会って奴だよ。新入生男子が歓迎の茶会を開くってイベントだ」

「普通は先輩諸氏が新入生を歓迎するための茶会を開くって展開じゃあ……」


 ユーリが突っ込みを入れる。ああ、俺も全く持って同意だ。


「どこまで行っても女性上位だからな。

 昨年に男を捕まえられなかった女生徒たちのために用意された狩り場、って所だろう。そしてその煽りを喰らった新入生女子たちは、次の年の新入生男子を狙う……というサイクルだな。悪循環だよ、憂鬱だ」


 俺はため息をつき、肩をすくめる。


「なんか大学のヤリサーみたいだね……いやボクも聞いたことあるだけだけど」

「ダイガク……?ヤリサー?」


 千年前の言葉だろうか。


「いやなんでもないよ。

 それでフィーグ君はどんなお茶会を開くの? お茶を持ってこぼさずに戦うとか?」

「どんな蛮族の茶会だよ。千年前の茶会ってそうだったのか?」

「……」


 ユーリは顔を背けた。


「……まじか」

「いや、そういう事してた人もいたってだけで、大まかには普通のお茶会ばかりだったよ。お茶の銘柄を当てる闘茶とか」

「ああ、それなら今もやってるところあるな」


 東の大陸から伝わったとされるもので、賭博としても人気だ。


「で、どんなお茶会するの?」

「それならもう考えてあるさ。


 そこらの女は寄りつかない、それでいて由緒ある格式の高い茶会だ」

 そう言って俺は笑う。


 そう、計画は完璧だ。




 そして新入生歓迎茶会当日。

 俺は校庭の一角に茶席を用意していた。


 そう、茶席だ。

 わざわざ用意した、タターミという名の敷物を地面に敷き、ショウジーやフースマという紙を使った衝立を立てて部屋を再現する。

 東の国アマツの文化だそうだ。そして実に俺好みである。

 自慢の盆栽を並べ、黒や茶色の茶器を置き、極め付きは「シシオドゥッシ」と言う楽器だ。

 噴水に置くとカコン、カコンと音が鳴るアマツの楽器だそうである。楽器なのに自由な音階を出すのではなくただひとつの音がなるだけ、というのがまた中々に良い。


 これで準備は万端だ。

 見ろ、きらびやかなクソ女どもが異様なモノを見る目で遠巻きに見ている。近寄ってくる気配ゼロだ。


 お前らのような虚飾にまみれた表面上の美しさしか理解できない、しようとしない豚どもには一生わからんだろうさ。この趣が。


 この俺の完璧な結界を抜けてくるようなのは……


「うわ、和風の茶室ふうだよ、なつかしー! まさに1000年ぶりってかんじ!」

「へえ、こ……こういうのもいいですね、なんというか……落ち着きます」


 俺の魂約者のユーリや、友人のアイネぐらいだろう。


「御主人様ー、このおかしおいしいです!」

「つまみ食いするんじゃありません、あとでちゃんてあげるから」


 あとフェンリも。

 お茶というより俺に会いに来ているだけといえばそうなのだが、それでも俺の趣味を理解しようとしてくれている部分は評価できる。というか普通に嬉しい。


「千年前にもこの国にあったのか? アマツの文化は」

「え? あ、いやうん、そんなかんじかなー」


 俺の質問にユーリははぐらかすように答える。まあ深くは聞くまい。前に和食作った時も感動してたしな。

 それよりも、だ。


「じゃあ茶の作法には詳しいのか?」

「え? うーん、そんなに詳しいってわけじゃないけど、まあ聞いた事はある、くらいかな」

「ほう」


 それは良い事を聞いた。


「正直、アマツ文化は断片的にしか入ってこないからな。正しく伝わってるかどうかもわからん。

 識者に詳しく聞けるのはありがたい、教えてくれ」

「あん、ボクもさっきも言ったけどそんなに詳しいわけじゃないけど、それでもいいのなら。

 とりあえず……」

「とりあえず?」

「鹿威しはああいう噴水に置いてカコンカコンカコンカコンとハードなビート響かせるものじゃないと思う」


 そうなのか。

 勉強になるな。




 さて、改めて俺は茶を淹れる。

 チャーガマというポッドで湯を沸かし、茶器には抹茶という細かく砕いて粉にした茶葉を入れる。

 そして、茶器にお湯を入れ、もうひとつの茶器で蓋をしたら、シャカシャカシャカとバーテンダーのように振り、茶をかき混ぜる。


「これでどうだ?」

「うん全然違うよ?」


 違ったらしい。

 ユーリはこほんと咳払いをして、説明をする。


「途中まではあってると思うけど、お湯を入れたら、こうかき混ぜるんだよ。たしか専用の道具があったはずだけど……」

「茶筅でござるな。これでござる」

「あっ、そうそうそれそれ。和風の泡だて器だっけ?」

「泡を立てるようにかき混ぜる流派もあるでござるが、基本は攪拌のための道具でござるよ。泡立てるかどうかはお好みにござるな。某は泡立てない方が好みにござる」

「なるほど、そういうものなのか……って、誰だ!?」


 途中から俺たちの会話に加わっていた女がいた。

 あまりにもスムーズに会話に加わっていたため、違和感に気づかなかった。

 いや、気配を消していた……!?


「おっと、これは失礼つかまつった。懐かしい茶葉の香りがしたものでつい」


 そう言った彼女は、優雅な所作で頭を下げる。

 ……女が俺に頭を下げる、だと……!?

 驚く俺をしり目に、彼女は名を名乗る。


「某の名は、ツルギ・ムラサメ。天剣令嬢の銘を授かりし、アマツからの留学生にござる」


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