55話 プレゼントの悩み
今までセンパイにプレゼントをしたことはなかったかもしれない。
クリスマスの時にプレゼントを意識してはいたけど、あの時はセンパイの質問に対する答えでうやむやになってしまったし・
「何がいいかな……」
仕事を終わった後、なんとなく寄ってみた商業施設をぼんやりと一人歩きしながら、俺は考える。
異性に何らかの物をプレゼントする気になったのは、今回が初めてだ。だからこそ、何を選べばいいか見当がつかない。
センパイの趣味や普段から好きなものはなんだっけ。映画と本しか浮かばないんだけど。
「まいったな、こりゃ」
一応コスメという案も浮かんだけれど、好みからかけ離れたものをプレゼントするのは普通に迷惑だしな。
ホワイトデーまでは後3日も残っているから、今日必ず買わなきゃいけないというわけではなかった。でも、やっぱり迷ってしまう。
どうすればいいかな。そう悩んでいた時、後ろから聞きなれた声が響いた。
「えっ、
俺は目を丸くして、さっそく振り返る。すると、今日の昼間にも会った同期がそこに立っていた。
……過去に俺に告白してきたことがある同期、だけど。
俺は少しだけ気がかりを感じながらも、素直に答える。
「あ、
「珍しいね、浅川君がここにいるなんて」
「いや、加藤こそどうしてここに?」
「ディヒューザーを買いに来たのよ。ちょうどこの辺りにいい店があって」
「へぇ、ディヒューザーか」
なるほど、その案があったのか。
頷いていると、加藤は俺をジッと見てからくすっと笑いながら、言ってきた。
「よかったら、一緒に行く?」
「えっ?」
「ヒントが見つかるかもしれないよ?ホワイトデーのプレゼントの」
その言葉を聞いて、俺はあんぐりと口を開けてしまった。
「……どうして分かったの?」
「浅川君が分かりやすすぎるだけだからね?会社の休み時間でもずっと検索してたじゃん」
「うわっ、バレてたのか……恥ずかしいな」
「ぷふっ、例の彼女さんとは上手く行っているようね」
……どうしてだろう。
彼女、という言葉を聞いて素直に喜ぶべきなのに、違和感が半端な過ぎて純粋に受け取れない自分がいる。
それとも、俺に一度好意を寄せてくれた加藤がそんな言葉を口にしたんだから、気まずくなったからだろうか。
でも、外から見たら確かに彼氏彼女に映るかもしれないな、とは思った。
首筋に絆創膏なんかつけて出社してるし、俺がセンパイのことが好きなのも事実だから。
「まあ、そんなところ」
「ええ~~言い方が曖昧じゃない?どう見てもラブラブじゃん。ホワイトデーのプレゼントでこんなに悩んでるんだから」
「あはっ……まあ、そうだな」
けっこう一方的な愛だけどなと付け加えたいのを我慢しつつ、答えを適当に仄めかした。
加藤は着ている上着のポケットに手を突っ込んで、俺を見上げてくる。
「んで、どうする?私に付いてきてくれれば、無難なプレゼントとか色々教えてあげられるけど」
「ああ、いや。気持ちはありがたいけど、加藤は彼氏いるだろ?その彼氏さんに悪いんじゃないか?」
「律儀だな~~大丈夫だよ。このくらいなら彼も理解してくれると思うし」
「そっか……」
正直、断った方がいいんじゃないかとは思う。
なにせ、加藤からは一度告白もされているわけだし、今はれっきとした彼氏持ちだから火種を作りたくはないのだ。
でも、周りに頼れる女子の友達がいないのもまた事実で……仕方ないと思いつつ、俺は小さく頷いた。
「じゃ、お願いしようかな。後で昼ごはん奢るから」
「あはっ、本当律儀。まあ、私もちょうど暇だったしね。それじゃ、先ずはディヒューザーから見に行こう」
「ああ」
この時の俺は、知らなかった。
この軽々しい掛け合いがどんな火種になるのかを、全く知らなかったのだ。
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