セフレセンパイとの同棲生活

黒野マル

同棲

1話  一緒に住まない?

センパイとのセックスは気持ちよかった。


初めての経験であんな刺激を味わったら、もう忘れようがない。俺はセンパイの体にとっぷりとハマっていて、それから半年が経った今でも。


センパイは、俺の目の前にいる。



「センパイって」

「うん?」

「なんで俺とセックスしてるんですか?」



行為を終えた後、服を着ながらそんなことを聞くと。


センパイは苦笑しながら、黒いブラのホックを留めてから言う。



「気持ちいいから」

「へぇ、気持ちいいんですか」

「うん、気持ちいいよ?コウハイ君とのセックス」



……ウソじゃない気がする。センパイ、さっきまでもけっこう乱れてたしな。


薄暗いラブホの一室の中、センパイは着替えを終えてからもう一度俺に聞く。



「君こそ、なんで私とセックスしてるの?」

「はい?」

「前に、職場の人に告られたって言ってたじゃない?」

「ああ~~はい、そうですね」

「で、秒で断ったと」

「……そうですね」

「なんで断ったのかがちょっと気になってね。聞いた感じ、けっこういい子だったんじゃない?」

「めちゃくちゃいい子でしたね。俺には勿体ないくらいに」

「なのに振ったんだ。酷いな~~コウハイ君は」



着替えを終えて、崩れた化粧を直しているセンパイを見つめながら思う。本当に、なんで断ったのだろう。


センパイのことが好きだから?たぶん違う。体の好きが心の好きに繋がるとは思えない。


センパイに悪いと思ったから?それも違う。そもそも、俺たちはそんな義理立てするような関係じゃない。単なるセフレだし。


じゃ、あの同期の子が好きじゃないから……?たぶん、それで合ってるだろう。何故だかは分からないけど、俺は告白をされた途端に絶対に頷いてはいけないと思っていた。


なんでだろう。あの子は優しいし、女性として魅力的だとも思っているし、試しに付き合ってみても全然アリだったのに。


……ああ、でも。



「見つけました、振った理由」



センパイのほんのりとした笑顔を見据えていると、なんとなく分かる気がして。


俺は、人差し指で自分の胸板を指しながら言う。



「ここが埋められないからじゃないでしょうか」

「………ふう~ん」



センパイは目を細めた次に、若干からかうような口調で言い放った。



「私とのセックスでその穴が埋められると思う?」

「いや、それは違いますね。絶対に埋められないと知っています」

「なのに、真面目なあの子を振ってこんな正体不明な女とセックスしてるんだ?」

「たった一瞬でも埋められたような感じがするじゃないですか。刺激ってそんなもんですし」



俺の返答に驚いたのか、センパイは目を見開く。



「俺は、たぶんですけど」

「………」

「もっと自由奔放に、この蜃気楼みたいな刺激に浸っていたいから、あの子を断ったんだと思います」



言葉にしてみるとしっくり来て、やっぱりそうだったのかと笑いそうになる。変な話だ。底の見えない沼にハマっているのに、そこから這い出そうともしないなんて。


センパイはしばし沈黙を保っていた。俺が言った言葉の意味を噛みしめるように、俺の言葉が真実なのかウソなのかを見極めるように。


そして、やがてその工程を終えたのか、彼女はまた笑顔のまま言ってくる。



「私、そろそろ引っ越ししなきゃいけないんだよね」

「へぇ、そうなんですか」

「うん、家を解約しなきゃいけなくなったの。ちょっとしたストーカー被害に遭ってて」

「うわぁ……大丈夫なんですか?それ」

「警察に通報はしたんだけどね~~それでもやっぱり付きまとわれている感じが拭えなくて」



センパイは、赤黒い照明の下で綺麗に笑っている。愉快そうに見えるけど、きっと色々なストレスを抱えていたんだろうと思うと、可哀そうにも映ってしまう。


でも、そんな感情は次の一言で吹っ飛んでしまった。



「だから、一緒に住まない?コウハイ君」

「………………………………はい?」

「一緒に、住まない?私と」



ベッドの反対側に座っていた先輩は、そのまま立ち上がって俺の前まで回り込む。

また呆けている俺に、先輩はその長い人差し指で俺の胸板をつついた。コンコン、と。



「この胸の穴」



百合の香りが一気に押し寄せて、意識が眩み始めたその瞬間。


センパイは意地悪な顔とは真逆の、疲弊しきった言葉を放った。



「私なら、もっと大きくしてあげられるよ?」

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