28.5
「……ニャ」
やはりこの女は、学校に侵入したあの時、ロッカーに潜む俺を見抜いていたらしい。せめて
「お? 見つけた? ――って、なんだネコじゃん」
「わっ、ふわふわでかわいい〜。ここの子なんかな?」
「野良だったら逆にビビるわ」
二人の機嫌が良くなったところで、長髪の女は封筒をおもむろに奪う。
「ところでこの書類ですが……先生は、“ご家族の方に渡してくれ”とおっしゃっていました。私、猫さんも大事な家族だと思うのです」
「いやいや……。そうかもしんないけど、そうじゃなくない?」
「では早速失礼して――」
「ちょちょちょ、マジで渡すつもり?」
長髪の女はしゃがみ込むと、封筒をビニール袋に入れ、持ち手を俺の口もとに差し出してきた。そして小声で、「猫さん」と喋り始める。
「こちら、新城さんのお母さんにお願いできますか? この前のこと、黙っておいてあげますから」
「……ン」
「ふふ、ありがとうございます」
「ホントに受け取りやがった……」
リーダー格の女は目を白黒させるが、彼女は何事もなかったかのように立ち上がる。
「では帰りましょうか。長居しては、猫さんに迷惑がかかりますから」
「お、おう」
もしかしたら、彼女の方がグループを支配しているのかもしれない。そんなどうでも良い感想を浮かべていると、ショートヘアの女が頭を撫でてきた。
「じゃあね、ヨスガっち!」
「……ニャ」
「え、なんで名前分かんの?」
「? ふつーに首輪に書いてあったよ?」
顔をしかめると、彼女らは屈託のない笑顔を見せる。そして最終的には教師の愚痴を吐きながら、かしましく去っていった。
◇◇◇
彼女らを見送った後、足を拭いてリビングに戻る。レイの姿は見当たらないが、かえって好都合だった。ひとまずソファーに背中を預け、封筒と顔を突き合わせる。
「しかし、中身を確認せず受け取ってしまったが……一体何が入っているんだ?」
興味半分警戒半分。封筒の端を肉球で挟むと、幾つもの紙が床に散らばった。すると遊びだと勘違いしたのか、レイが背中に飛び乗ってくる。
「ニャッ!」
「フッ、まだまだ遊び足りないか。だがすまん、もう少しだけ待っていてくれるか?」
「ン〜……」
不満を訴える彼女をなだめつつ、紙面の見出しを口にする。
「ほう、“授業参観の案内”と“運動会のプログラム”か。双方とも初めて聞くが、どういうものなんだ?」
視線を落とし、詳細を読み込む。淡々と書かれた、開催日時や場所。そして最後の5行では、保護者に対し非日常の重要性を主張していた。
「……成程。今の彼女には酷な内容だ。とはいえ、頼まれたからには渡さねばならんが」
「ニャ?」
「ん? ああ、これか。……我が子の成長を見守る為の、大切なお知らせだ」
そう言ってレイの頭に手をのせると、鳴き声とも欠伸ともつかない返事が返ってきた。
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