27.5
鳥居が現れたのは、ある夏の日の夜。私は友人たちと花火を眺め終え、汗を拭いながらレジャーシートを畳んでいた。するとふと、柳の中――街頭も無い河川敷に、ぽうっと穏やかな光が現れた。
初めは蛍かと思い、気持ちが穏やかになった。しかし光は形を変え、あろうことか鳥居を成した。流石に怖くなり、傍にいた友人の肩を掴む。しかし彼は「気になるから少し見てくる」と、私たちの制止を振り払い、一人で柳の森に飛び込んでしまった。
「どうしよう」。その場にいた全員が、恐怖と困惑で固まった。けれど見捨てるわけにもいかず、私が「助けに行こう」と手を挙げる。――そうして私たちは、全員で鳥居に向かった。
“もうすぐ帰るから待ってて”と、LINNEにメッセージを書き遺して。
◇◇◇
「けれど、待てど暮らせど続報はなく。未だ彼らは鳥居とともに行方不明らしい。――以上が、僕の得た情報だ。ちなみに僕も
長きに渡る語りの果てに、小鳥遊兄はようやく口を閉じた。すると弟は、恐る恐る問いかける。
「あ、あのさ……。本人も友だちも……みんな帰ってこなかったんだろ? だったらそれ、誰が書いたんだ?」
「恐らく、彼らからLINNEを受け取った人だろうね。サイトは閉じられてしまったから、確認は出来ないけれど」
「な――」
身震いをする弟。だが兄は、二階堂に視線を向ける。
「次は藤香さん、報告頼めるかな」
「うん。結論から言うと、特におかしなところは無かった。鳥居も無かったし、普通の柳の森みたいだった」
「成程。凛太郎はどうだったかな?」
「あ、ああ……。オレも別に、何も見てない」
「そうか……。ならば、ヨスガくんはどうだろう」
つい数時間前に、言葉が理解出来ないと学んだだろう。気怠げに返事をすると、小鳥遊兄は困ったように笑った。
◇◇◇
最高気温もピークを過ぎ、畑は徐々に寂しさを見せ始める。葉は地に落ち、新規の実りは皆無に等しい。それはまるで、情報が得られず時間ばかりが過ぎている現状を反映しているようだった。一方でテーブルの籠には、収穫して数日経ったキュウリやトマトが残されている。
「……疾く目覚めねば、全て喰らい尽くしてしまうぞ」
琴音は花火大会の当日でさえ、畑から野菜をもいでいた。それほど好いているものが無くなったら、彼女は恐らく悲しむだろう。しかし「もう待てない」と言わんばかりに、トマトが一つ地に落ちた。
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