第11話 貯水池

相棒のツインを走らせ藍と共に貯水池に着いた後に

そう言えばここも心霊スポットだった事を思い出した

生まれてこの方幽霊を見た事がないおっさんは信じていないので怖くない

出ても霊力込めて殴ればいいやと気楽に考えながら目的地へと足を進ませる


「誰かと会うのも嫌だし人払いの呪符を使ってみるのはどう思う?藍」


「キュッキュ」


多分使えって事だろうと思いショップを開き人払いの呪符を買う


人払いの呪符

使う事でその場に人払いの陣を敷く呪符


鑑定しても説明はいつもながら簡素だった

使ってみても何も変わった気はしないが効果はあるだろう


モンスターに出くわす事もなくある程度進んだところで嫌な気配を感じた


「キュッ!!」


「ッッ!」


藍の声を聞き反射的バックステップをすると先程までいた場所に何かが刺さるとすぐに引き戻される

その先に敵がいた


「へぇ蛙か……」


舌先が槍の様になっている蛙が俺目掛けてまた仕掛けてくる


投げ槍の様に飛んでくる舌を木刀で弾き距離を詰め一閃


「シッッ」


ぼふっと身体に埋まるが効果は薄そうだ

蛙は邪魔だとばかりに腕を払う

それを避けながらどうするべきか頭を高速で回転させる


「こりゃちょっと相性悪いか?」


そこから数度攻撃を当てるがダメージが無い

撤退も視野にいれてると懐から藍が飛び出した


「キュァァ」


口から火を吹き蛙の皮膚を焼く

痛みでのたうち回るが致命傷では無さそうだ


「まだやれるって事か?」


「キュッ!」


攻撃さえ通れば大した敵じゃない

このまま藍に任せても勝てそうだが少し思い付いた事を試してみる


漠然と木刀に流している霊力を意識して鋭くする


「安定させるのが難しいな」


勢いよく蛙へと近付き木刀を振るうと皮膚を引き裂きダメージを与えられた


「斬れるのなら祖父に習った剣術が生きるな」


全身に霊力を流し技を繰り出す


九十九流つくもりゅう 山颪やまおろし


高速の居合を繰り出しすぐに斬り返す


「ふぅ……久々過ぎて上手くいかないな」


蛙は消えその残滓を藍が吸収してる

その姿を眺めながら


使う機会が無く祖父が亡くなってからは自分の中で封印してた九十九流刀剣術

祖父曰く扱えれば龍を屠り鬼を刈ると言っていたな

当時の俺はどこで使うんだよ、としか思っていなかったが

今では習っておいてよかったなんて考えてる


「よし先に進むか」


「キュッ」


吸収し終えた藍を抱き抱え懐へとしまう


そこから数度蛙と戦闘を終え貯水池ゲートへと着いた


「藍はゲートは初めてだろ?景色が変わるけど大丈夫だからな」


ゲートに触れて景色が変わる


「また森か……」


森の中の探索も藍の探知があるから大丈夫だろうと

気楽に足を進める


「こっちに反応があるのか?」


藍の指示に従い歩いていると草陰からのそのそとゼリーが現れた


「スライムじゃん!」


定番モンスターに出会い興奮するが某ゲームのスライムの様な可愛さはない

これは心が痛まないなと木刀を振り下ろそうとした瞬間スライムが何かを飛ばしてきた

当たった場所がジュュュと煙を上げている


「森のモンスターは毒や酸ばっかりかよ」


口に出した後にゴブリンは不衛生そうだしあいつの攻撃も状態異常系だし

そう言えばチュートリアルの時スライム倒したよな

反射的に蹴ってたから忘れてたわ、森とか関係ないと自己完結


スピードはあるが直線にしか飛んでこない攻撃なんて簡単に避けられる

先ほどと同じ様に木刀を振り下ろして仕留めると溶けて消える

ドロップアイテムは魔石と茶色の硬貨だった


スライムの魔石

10個1ポイントで買取可能


銅貨

1000円で買取可能


銅貨は1000円なのね10円が1000円でしたみたいな不思議な感じ


魔石の買取がお金からポイントに変わってるな

10匹分で1ポイントならお金よりポイントの方が価値が高いのか

つまりポイントアイテムはその分価値がある

買いたい気持ちが強くなる


スライム相手に何かある訳もなく数十匹倒した頃

藍が強く反応し始めた


ドスン、ドスンと木々の間から顔を出す熊

4つの目に4本の腕額に大きな角が一本


「ヒグマよりデカいなこりゃ……藍は少し離れてろ」


そう言って藍を地面に降ろし木刀を構える


「やろうか」


「ガァァァァ」


お互いに走り出し熊が腕を叩きつけて来るのを避け技を繰り出す

「九十九流 骨喰ほねくい

地面にクレーターを作ってる腕に沿って刀を振るう


本来なら骨ごと断つはずが、技の精度が低いからか霊力の操作が悪いのか

それともこの熊の毛と皮が想像以上に硬いのか

血が吹き出すだけで済んでいる


「骨が折れそうだな……使ってみるか」


当時の俺では身体が付いて行かずまともに使えなかった技の1つ

今の強化された肉体でなら使えるはずだ


「九十九流 奥伝之一 虎断こだち


祖父曰く九十九流創始者はこの技を使い虎を真っ二つにしたと言う

嘘臭いがそう言いたくなる程の威力の横薙


「ガァァァァ」


腕の一本を切り飛ばされ熊が吠える

がおっさんは油断してたのか殴り飛ばされ木にぶつかる


「グハッ……」


口から血が垂れて来るが想像よりダメージが少ない


「元の身体だったら即死してたな……」


そう言いながらもおっさんは不思議と笑みを浮かべている

退屈な変わり映えしない日々より命のやり取りの刺激ある日々に変わった事に


「本気で行くぞっ」


霊力を全力で身体に流す

今まで流してた分は霊力の雫を飲む前の分と変わらない

6倍の霊力が迸り熊が怯む


「奥伝之二 隼墜しゅんつい



超高速の振り上げから放たれる斬撃は刀を離れて尚触れるものを切り裂き遂には熊を両断する


「うわぁ……」


あまりの威力に使った本人がドン引きしてしまった


「キュァ……」


藍も引いている


「まぁ、まぁ藍ちゃんやドロップアイテムの確認をしようや…」


意識を逸らすために落ちているアイテムを集めて鑑定してみると


デビルベアの魔石

20ポイントで買取可能


デビルベアの角

5万円で買取可能

黒く光沢のある角を使った芸術品は好事家達に愛されている


デビルベアの胆嚢

10万円で買取可能

悪魔の様な苦さだが食べると死ぬまで二日酔いにならない


「神アイテムきたぁぁぁぁぁ」


おっさん歳のせいかお酒を飲んだ次の日は辛い事が多くなってきた

それがなくなるのなら好きなお酒を気兼ねなく飲める

つまり神アイテム


ステータスも見とくかと開くと


江浦幸助

レベル11

肉体36

精神53

霊力12.9


レベル9


10レベルで進化


「進化だと……」


残滓を吸い切って満腹なのかうとうとしてる赤ちゃん蛇を見る


「赤ちゃん卒業……」


進化する前に写真と動画を目一杯撮らなければと心に誓うおっさん

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