【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

第3話 『茶番』

復讐をしないと言ったものの、やはりあの二人が憎いと思う気持ちもある。

「復讐ねぇ……」

分からないよ。

どうすればいいのか。復讐するにしても何をすればいいのか。

「あーあ、どうすっかなぁ……」

ため息混じりに呟きながら歩いていると、誰かにぶつかった。その拍子に私は地面に尻餅をついてしまう。

「っ……す、すみません」

慌てて謝れば、ぶつかった相手は私を見下ろしていた。その相手は――

「いえ。こちらこそすみません」

透き通った声でそう言ったのは、金髪と琥珀色の瞳を持った少女だった。マリー様と同じく、儚げな印象を受ける少女だ。

彼女は私をじっと見つめると、こう言った。

「突き落とさなのですか？」

「……はい？」

私は思わず首を傾げた。突き落とす？何を言ってるんだこの人は。私はそんなことするつもりもないのに。というか突き落とすって一体どういうことなんだ……？

「マリー様のこと階段から突き落としたのは噂になってますよ」

少女は淡々とした口調でそう言った。……噂になってるの？あれ、でも何で私のところには噂が回ってこなかったんだろう。

「でも、この噂……もし、真実だとしたらおかしなところがあるんですよ」

「……おかしなところ？」

私は思わず聞き返す。一体どんなところがおかしいというのだろうか……？

「マリー様を階段から突き落としたというのなら……マリー様に傷の一つでもあってもおかしくないのにそれがないし」

淡々した口調で少女は言う。まぁ、本当に突き落としてないしな。少女は私のことをじっと見つめると、

「貴方はマリー様を突き落としてなんかない…と私は思っていますが違いましたか？」

少女の言葉に私は目を見開いた。――信じて……くれるのか？この少女は。

私が何も言えずにいると、彼女は続けた。

「無言は肯定だと受けとりますよ」

少女の瞳が私を射抜く。嘘は許さないというような目をして、彼女は私を見つめていた。

「……そうよ」

気づけば私は口を開いていた。だって嘘じゃないもの。私はマリー様を突き落としてなんかいない。

すると少女は微笑んだ。儚げに、消えてしまいそうな淡い笑顔で。

「やっぱりそうですか」

彼女はそれだけ言うと、彼女は金髪を手で払いながら――。

「やっぱり嘘だったのか」

声が変わった。今までよりもずっと低い声で……まるで男のような声音で彼女は言ったのだ。

「まだ気づかない？」

そう言って彼女はウィッグを外した。その下から現れたのは……燃えるように赤い髪だった。

「まさか……」

私は呆然としながら目の前にいる人物を見つめるしか出来なかった。何故なら、そこにいたのは――。

「クラウス様……？」

クラウス様だったのだから。