春の宵に沈む

井ノ中 蛙

第1章 春

__ずっと友達だよ!

頭上の桜は蕾が色づき始め、まるで春を呼んでいるようだった。ぱっと咲いたような笑顔と、鈴の音に例えられる可愛らしい声に胸がきゅっと締め付けられる。それと同時につのる思いまで込み上げ、息をするのが精一杯だった。硬い唾を飲み込んで、やっと口を開く。

__うん、勿論。

自分でもなんて冷たい返事だと思う。笑顔になんてなれやしないし、眉はきっと下がりきっている。涙が頬を伝う前に、校舎の壁に掛かった時計に目をやった。「上を向いて歩こう、涙がこぼれないように」とは上手くいったものだ。が、私にはそんなに器用に上を見て歩くなんてこと出来ない。ただひたすらに時計を眺めて、1秒、また1秒が過ぎていくのを見届けた。涙がこぼれないように。

__空が綺麗だねぇ、

ぽつりと春の宵の空に放り出された言葉は、私の肩を叩いた。不意をつかれた私は思わず彼女の方を見るけれど、彼女の瞳には空が写っている。また胸が締め付けられると同時に安堵して、堪えきれなかった涙が頬を伝う。


あの時の、空の青を掬って丸めたようなビー玉が、ポケットの中で心做しか暖かかった。

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