第29話腎臓移植の術後、そして病気の再発
手術はまず、主人が先に入院して一回だけ透析が行われた。
そうすることで、障碍者として優遇措置が受けられる。
私が様々な申請を行っている移動中に主人から電話がかかった。
「透析が失敗して多量の血が飛び散った。」私は気が動転した。
急いで腎臓移植の専門の看護師さんに連絡を取った。
「主人から透析が失敗したって連絡が来ました。私は病院から帰ったばかりですが、恐れ入りますが様子を見てみてくださいませんか。」
「わかりました。状況を確認します。」
看護師さんは、ベテランで落ち着いていた。
そして透析のために血管にチューブを通した看護師を叱りつけたそうだ。
そして翌日には成功し、無事に透析できたみたいだった。
私は自分が入院するまでの間に障碍者の手続が出来るように市役所を回った。
そしてギリギリで申請が通り、優遇措置は受けられることになった。
そして私も病院に入院し、ドナーになるべく手術台に上がった。
医師たちを紹介され、左側の腎臓を摘出する手術が行われた。
麻酔が効いてすぐに眠りにつき、目覚めたときには手術が終わっていた。
内視鏡手術で腎臓を摘出し、そのまま主人の体に私の腎臓を入れる手術に入った。
私が目覚めると、義妹さん夫婦がベッドサイドに来ていた。
「主人は大丈夫?手術は成功したの?」
「手術は成功だよ。とてもきれいな腎臓だったって。尿がたくさん出て見事に機能していたみたいだよ。」
「よかった・・。」私は再び眠りについた。
翌朝、猛烈な吐き気とともに目が覚めた。
麻酔の後遺症だった。看護師さんが素早くトレイをあてがってくれてベッドを汚さずに済んだ。
主人の病室は個室だったが私は大部屋に入院していた。
病室には様々な人が入院していた。
私のようにドナーになった人、腎臓移植が終わって療養している人、移植前に合併症の治療をしている人など皆病気を抱えていた。
私のような精神病患者はいなかったが、みんなと病室で仲良くなった。
闘病に対する苦労を重ねている人たちとは意気投合した。
私はこんなに病気でも頑張っている人たちがいることに感動していた。
私の病気なんて大したことはない。そう思えてきたのだった。
私は療養の合間に病院に書いてもらう書類を集めていた。
病室から書類申請のフロントは、エレベーターと渡り廊下を通る必要がある。
そこを何度も往復しながら、役所に提出する書類を集めた。
また、主人の病室により術後の経過を確認した。
主人の回復は順調で、術後2日で点滴を手にして歩行できるようになった。
これからは私の腎臓を攻撃しないようにするために免疫抑制剤を飲む必要があった。
何種類もの薬を朝と夜の9時に飲む。
定時にのまなければいけないので忘れないようにしなければならない。
「年を取ったらこの薬の管理ができるかなぁ?」主人が弱音を吐いた。
「私も気を付けるように声掛けするから。」と答えた。
こうして順調に回復し、私は一足先に退院した。
そして病院でそろえた書類を手にして、市役所、保健所、年金事務所に提出した。
主人が退院するまでの間になるべく作業を進めておきたかった。
家に帰って息子とも顔を合わせた。
一人で頑張っていた息子にはファミレスで夕食を御馳走した。
そして、主人も退院し、家での療養が始まった。
主人はリハビリに朝の散歩を習慣にした。
私も傷口は傷んだが、車を使って息子を送り迎えし、書類を何度も再提出した。
そしてようやく全ての申請が終わって承認が下りたころ、私に異変が起こった。
もう数年出ていなかったフラッシュバックが起こるようになった。
最初は、更年期障害かと思った。
地元の病院の産婦人科にかかろうと思ったが、窓口の受付の場所が変わっていた。
そして私はパニックを起こした。
これは更年期障害ではない。統合失調症だと気が付いた。
病院のベッドを借りて、療養している主人に連絡をした。
天井がぐるぐる回っている。車を運転するのは不可能だった。
主人がタクシーに乗って駆け付けた。
「病気が再発したみたい。精神科に行かないと。」
取り合えず、病院でデパスを処方してもらい、翌日に腎臓の手術を受けた病院の精神科に行くことにした。
主人もまた週に一度は通院していた。
大学病院の精神科はドナーの意思確認の時に受診していたので紹介状は不要だった。
私は陽性症状が出ており、頭がボーっとしていた。
主人が症状を説明し、若い医師がそれを聞いた。
そして後ろ側でドナーの意思確認の時の医師がパソコンに向かって症状を打ち込んでいるようだった。
私は幼児退行しており、発言のたびに手を挙げていた。
何をしゃべったのかは覚えていない。
でも、腎臓が1つになった私はリスパダールはもう使えなかった。
それで一世代前のセレネースを処方された。
この薬ならば肝臓で処理されるからだ。
そして、主人の時の経験を生かして、私自身の障害年金の申請をしようと決めたのだった。
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