第15話新婚生活と病気の再発

私達は結婚式を終えて新婚旅行に行った。

行先はバリ。とても楽しかった。

新婚旅行も新婚生活も順調だった。

しかし、主人は仕事がとても忙しく、朝早く出て夜遅くに帰ってくるようになった。

主人はショートスリーパーで、短い睡眠でも平気な体質だった。

だが、私は朝食とお弁当を作り、夕食を遅くに作るため睡眠不足を補うのに昼寝をするようになった。

主人から株式投資の勉強をするように依頼され、マンションの下にある図書館で勉強した。

専業主婦として家計を守るため節約を心掛け、毎日が新しいことの連続だった。

そして昼寝をする分、夜に眠りが浅くなるようになっていった。

すると、昼間一人でいるときにフラッシュバックが起こるようになった。

結婚式の場面が繰り返し浮かび上がり、見学者のことも気になり始めた。

私は薬を止めていたが、ここにきて病院通いをする必要が出てきた。

頻繁に起こるフラッシュバックで一人きりでいることに耐えられなくなり、実家に逃げ帰った。


実家近くの大学病院の精神科へ再び訪れた。

私は病気が再発したことで原因を追究しようとしていた。

お医者さんは原因については語らず、薬だけを処方しようとした。

そして今の生活について尋ねてきた。

「昼夜が逆転して、一人きりでいるとフラッシュバックが起きてつらいです。」

「この病気の原因は何なのですか?」

「再発をしたということはもう自律神経失調症ということはありません。統合失調症です。」

「原因は脳の誤動作です。シナプスが増えすぎてドーパミンが過剰分泌するのです。」

シナプスとは脳内の電気信号を受け取る受容体だ。

そしてドーパミンというのは脳内の快楽をつかさどる物質の一種だった。

さんざん疑問をぶつけて得た答えがこれだったのだ。

私なりに図書館で統合失調症について調べていたので驚きはしなかった。

自立神経失調症とは精神病の中の風邪のような存在で、原因不明の不定愁訴に着けられる名前だ。

私は最初は自律神経失調症と言われていたが、症状を考えると直感的に違うと感じていた。

絶え間なく続くフラッシュバックは私から脳内の考えを抜き取られるような感覚を与えた。

リスパダールを処方され、実家に帰った。

土日には主人が来てくれた。

「こんなことになって本当に申し訳ないです。」父が言った。

「恵美子さんに無理をさせていたのでしょうか?」

「夜眠れないのは病気に触るみたいです。」

「もう、帰り時間に待っていてくれなくてよいから早く寝てください。」

主人と父が話し合っていた。

私は自分が情けなく、主人に謝った。

「もう少し落ち着くまで実家で過ごすといいよ。」と言ってくれた。

そして私はフラッシュバックの原因を探りにA社に向かうのだった。


A社では成岡さんに会うことにした。

表向きは結婚式の報告だった。

成岡さんは親戚の所用で結婚式には欠席していた。

しかし、どういうわけか前田さんに私が来ていることが知られてしまい、受付に現れた。

フロアは広いので、私に近づかないように松川さんたちが取り押さえていた。

「離せよ。なんでお前また調子崩しているんだよ!」

「幸せになったんじゃなかったのかよ!!」

受付の応接スペースの反対側で前田さんが叫んでいた。

「結婚式の時はあんなにきれいだったのに、お前病気の時はそんななんだな。」

やはり見学者は前田さんだったのだ。

私は動揺し、「私帰る。」と言った。

成岡さんは「その方がいいわ。」と言った。

そして走って出口へ向かった。

皆に取り押さえられた前田さんは、「俺は本当に好きになった人は2人しかいないのに、1人は死んじまって、もう1人は狂っちまって!!」

私は耳をふさいでいた。「何耳ふさいでるんだ。聞こえてるならわかるように説明しろ!」

「なんで俺から逃げたんや!」

「お前、帰りの電車で飛び込んだりするなよ。好きな女に2人も死なれちゃ俺も生きちゃいないからな!!」

私はまっすぐに実家に帰った。

実家にはA社の人から電話がかかってきていた。

「今、帰ってきました。・・えぇ大丈夫です。」父がそう言って電話を切った。

「何でもなかっただろ。」

「うん。大丈夫。」と言ったが、疑惑が確信に変わり少しも大丈夫ではなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る