第13話 騎士の間での誓い
父親に呼び出された。
父親というのはルフス・モルデカイ・ラインハルト。
カタルの親父だ。
(はぁ……結局昨日はエレナが帰ろうとしないから、あのままさっさと引き上げちゃって、オレのキチゲ解放も不完全燃焼……。よ~し、今夜はエレナが来る前にマイ防音室に入って思いっきり解放してやろう!)
そう決意しながら騎士の広間、と呼ばれる部屋の前へとやってきた。
(騎士の間ねぇ。ずいぶんとご大層な名前の部屋だことで。要するにあれだろ? 会議室みたいなもんだろ?)
コンコンコン。
ノック三回。
この世界でもこれが正しいのかは知らないけど、大体世界万国共通だろ、こういうのは。
「カタルです」
「……入れ」
ガチャリ。
重たいドアノブを回して中へと入る。
そういえばオレはこの世界に来て自室とトイレ、あとは裏庭くらいしか行ったことがなかった。
他の部屋に入るのは初めてだ。
(へぇ……たしかに騎士っぽい)
重厚な白い長机。
藤の蔓のように垂れているシャンデリア。
部屋の隅に置かれている全身鎧。
暖炉の上にかけられた巨大な肖像画。
そして、その肖像画に描かれてるのと同じ人物が部屋の一番奥に座っている。
イカツイ白ひげのガチムチジジイ。
(これが、ルフス・モルデカイ・ラインハルト……)
まるでヤクザの親分だな、と思う。
左頬にある大きな傷痕が、なおさらルフスのスジモノ感を強調している。
っていうか目つきがヤバい。
ギラギラ。
睨むだけで人殺せそう。
ヒェ~、なにこの圧迫面接感。
朝からキツいなぁ、こういうの。
大体、父親にいい思い出ないんだよなオレ。
優秀な弟にばかりかまけてた父。
オレのことはほぼ無視していた、日本の父の姿が頭をよぎる。
「…………」
え、なにこの間。
なんかないの? おはようとか。
オレは手持ち無沙汰のまま突っ立っている。
間が持たないので、部屋の中を見回してみる。
騎士の間。
大きな窓からは朝日が差し込んできて宙に舞うホコリをキラキラと照らしている。
よくわからない紋章や勲章みたいなものもたくさん飾ってある。
けど……なんか全体的にアンバランスな気がする。
いまいち統一感がないような。
とりあず置いてますみたいな粗雑な感じ。
権威を見せつけるようなものを並べてるくせに、権威自体には興味がない……?
(あっ……)
オレのすぐそば、入口の横に貝やアクセサリーを並べた棚を発見した。
その一角だけ、なんだか優しい雰囲気が漂っている。
干し草や小石なんかも置いてあって、まるでここだけ戦地に咲く一輪の花のようだ。
妙に気になって、その棚に手を伸ばしかけた時。
ルフスが口を開いた。
「例の件はどうなっている?」
例の件?
いや、わかんないッス。
なんせ自分、死んだカタルの体に宿った殿沢風太なんで。
と言えるはずもないので、カタルっぽく返してみる。
「なにを心配されているのですか、我が父? むろん、順調に進んでおりますよ」
ニヒルな笑みを浮かべて悪役っぽく答える。
けど、実際オレは何もわかってませ~ん!
何が順調なのかもさっぱりわかりませ~ん!
「そうか、ならよいのだが……ならば先日の件はどういうことだ?」
今度は先日の件!
だからなんのことかわかんね~っつーの!
「フッ……当然計画のうちです。そんなに私が信用できないので?」
うおおおおお、オレが一番オレの言葉を信用できねぇよ!
なんだよ、計画って!
自分で自分がわかんねぇ!
「むぅ……」
ヤクザの親分風の男、ルフスはそう唸ると腕を組んで黙り込んだ。
あれ、大丈夫?
なんか地雷踏んだか?
つーか、そっちが具体的に聞いてこない限り、こっちも曖昧にしか答えられね~よ。
「貴様を信用していて大丈夫、ということだな……?」
「私を誰とお思いで? あなたの息子、カタル・ドラクモア・ラインハルトですよ?」
いや、殿沢風太ですけどね?
出来ることといえば、社内インフラ構築を整えるだけのただの派遣システムエンジニアですけどね?
だからオレは、あなたとカタルで進めてたっぽい案件とかな~んにも知らないんデスっ!
「全ては貴様の計算通り……そういうことだな?」
「もちろんです(ニヤリ)」
もう笑うしかない。
なんだよこれ。
いや、でももし日本で上司に詰められてる時のオレにこの図太さがあったら、あそこまでストレス溜め込まなくて済んだのかもしれない。
「よし、ならば貴様が直接行って後始末してこい」
「はっ、もちろん。すぐに片付けてやりますよ」
行くって、どこへ?
片付けるって、なにを?
「表に馬車を用意してある。トワと一緒に乗って向かうがいい」
「はっ。枕を高くしてよい報告をお待ち下さい」
報告以前に何をすればいいのかすらさっぱりわかんねぇ~!
「わかってると思うが……この騎士の間での虚偽の誓いは万死に値するぞ?」
「フッ……我が父よ。このカタル・ドラクモア・ラインハルト。ラインハルト家の名にかけてなんの二心も抱いていないことを、結果をもって証明しましょう!」
こうして雰囲気とノリだけで威圧感マシマシの子爵ルフスとの面談を乗り切ったオレは、なにもわからないまま馬車に乗って揺られて向かうこととなった。
盗賊団殲滅によって一触即発になっている領境の街──。
テムトへと。
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