悪役貴族は夜中に吠える ~【防音室】持ちの悪役貴族に転生したので思う存分キチゲを解放してたら、美人修道女に勘違いされてカリスマ教祖として祭り上げられてます~

祝井愛出汰

第1話 キチゲ、解☆放!

 現代ストレス社会。

 ヤバい、ストレス半端ない。

 あぁ~、もう無理。

 オレ、殿沢風太とのざわふうた二十四歳(社畜)のコップ一杯分ほどの自制心。

 そこからドバドバとあふれ落ちた。

 溜りに溜まったストレスが。

 なので発散──いや、解放させることにした。

 オレの、キチゲを。


 キチゲ、すなわち◯◯◯◯ピーーーゲージ。


 スゥ~……。


 オレは冷えた空気を肺いっぱいに吸い込むと、幸せそうに街中を闊歩してる連中をカッと睨みつける。


「うびゃびゃびゃびゃ! ばーか! ばーか! やぁ~~~い! うんこうんこぉ~~! はい、これでお前らのクリスマスの思い出、うんこに決定~~~~! あぁ!? 何見てんだ、てめぇ!? 投げ飛ばされたいのか、おぉん!? っつーことで、おりゃ背負投げっ! 背負投げっ! からの~? バスターアンドスイング! そしてシザースフェイントからの阿波おどりぃ~~~!」


 十二月二十四日の夜。

 雪降る町の真ん中で、オレは一人変な動きをして溜まりに溜まったキチゲを解放させていく。

 周りの奴らがどう思おうが知ったこっちゃない。

 今のオレに出来ることは、胸の奥からサイダーのように湧き出てくる衝動を言葉と動きに乗せて吐き出すことだけだ。


「はいっ、水平線! 水平線からのくるっと回ってアホウドリ! コケコッコー! コケコッコー! コケコケコッコ〜コケコッコぉ~! あ、空飛べそう! 空飛べそう~~~! んじゃばらばらばばばばばぁ~~~~~! って、飛べるわけないだろ、ば~~~~~~か! はい、うんとこどっこいしょ! うんとこどっこいしょ! からのセイッ! セイッ! 正拳突きからのSAYイェス! 聖夜だけにせいっ! そしてイエスだけにイェスっ!」


 水平線のように広げた両手が、イエス・キリストのモノマネを模してフィニッシュする。

 完璧だ。

 あまりにも完璧すぎる一連の動作。

 一分の隙もないパーフェクトなキチゲ解☆放。

 街のざわめきをよそに、オレは充足感に満たされる。

 すると、突然……。



 ガッ!



 世界が反転。


 え? あれ? なに?


「ぎゃははは~! たった今! 街中で迷惑をかけてるクズを、オレ様が私人逮捕しましたぁ~!」


 一瞬飛んでた意識が戻る。

 目線が地面と水平線だ。

 頬には、ひんやりとした地面の冷たさが伝わってくる。

 しかも、地面はなんか赤く染まって……って、え?

 これ、もしかして……オレの血?


「はぁ~い、犯罪者を逮捕した証拠をぉ~、私たちが撮影してまぁ~す!」


 女の声。

 オレを取り押さえてる男とは別に、数人の若い男女がスマホで動画を回してる。


(あ、これ最近ネットで見てたやつだ……私人逮捕系配信者……。あぁ……なんで……オレは、ただキチゲを解放させてただけなのに……)


 男たちの声が徐々に遠くなっていく。

 あれ、これ……もしかするとオレ、このまま……。


(あぁ……もし死ぬのなら……どうか次は思いっきりキチゲを解放し放題の世界に……)



 ◆



 目を開けて最初に見えたのは、くすんだ金髪のくるくるロールだった。


(は? なんだこれ……?)


 どうやらオレは今、ベッドに寝てるみたい。

 だけど、ここは病院ではないらしい。

 なんか……ドラマのセットみたいな部屋。

 独特な臭いが鼻を突く。


(タバコと……なんだ? ハーブ?)


 ゆっくりと頭を起こす。

 すると、汗をかきまくったちょび髭ふとっちょの男の顔が視界に飛び込んできた。


(うわっ、なんだか暑苦しい人だなぁ……)


 ふとっちょがぷるぷると体を震わせながら叫ぶ。


「お、おおおっ……! お目覚めになりましたぁ……! カタル様がお目覚めになりましたぁ!」


 ……は?


 カタル……様?


 なにそれ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る