傭兵たちの帰路
七星北斗(化物)
1.生きる
微かな土の匂いと、辺りを充満するのは、錆びた鉄のような刺激臭。
それと混じって、腐った肉の強いアンモニア臭と酸っぱい匂いに吐き気を催す。
その中で、黒パンを齧る男がいた。
「テックさん、よく食べれますね」
信じられないといった様子で、新兵のナクルが話しかけてくる。
「お前も食え、死ぬぞ」
「いやいや、無理ですよ。こんな臭い中、食べたら吐きますよ」
そう笑っていたナクルは、次の日に死んだ。
ワシのような自由が売りの日払いの戦争屋を、
今日もチーズが旨い。
白パンがあれば文句はないのだが、いかんせん物価が上がっている。
戦時中なのだから、仕方がないことだが。
傭兵家業というものは、楽ではない。
常に前線に行かなければならないので、死亡率が高く、小間使いされることも少なくはない。
何より、給料に当たり外れがある。
雇い主からすれば、死んで儲けるといった具合である。傭兵が死ねば、給料を払わないでいいのだから。
傭兵からしたら、戦果を出すことよりも生き残ることが何よりも重要なのだ。
運良く生き残っても、重大な負傷を負うと廃業するしかないので。その後の未来は、物乞いとして生きるしかない。
ワシが体に欠損がなく、重い病にならずに生きていられるのは、本当に運が良く恵まれているのだ。
だから感謝せねばならぬ。
ワシが出会ってきた全てのものに。
今日は、安酒を飲んで寝よう。
明日も早い。
現在エディタ共和国は、レベリア連邦とラーヴァ皇国の大国に挟まれ。近隣の寄せ集めの小国で作った連合軍との戦争真っ只中。
エディタ共和国は、あまり裕福な国ではない。勝っても地獄、負けても地獄。
今回受けた戦争の傷は、十五年は癒えないだろう。
そんな状態のエディタ共和国を、無視するレベリア連邦とラーヴァ皇国ではない。
この戦争には勝利ないので、早いとこ離脱することを考えねば。
エディタ共和国が、崩壊するのも時間の問題だ。
そんなことを考えていると、物音が聞こえた。
一人や二人ではない、慌てた様子で辺りを駆ける兵士の足音。
脱走兵だ。
もう駄目だな、この国は。
この期に乗じて、ワシも逃げることにした。
荷物を片付けると、他の脱走兵とは逆の方角へ逃げる。
正規兵には、脱走兵を追いかける余裕などないとは思うが、念のためだ。
捕まってしまった場合は、軍の規定に基づき処刑されてしまう。
今回の戦争では、ワシのような鳥戦屋だったとしても、まあ重罪を押し付けられるだろうな。
それ程この国の軍隊には、余裕がないのだから。
しかしどうやって、国境を抜け出したものか?
敵国の国境を通るのは危険が伴うし、エディタ共和国の国境は封鎖されている。
国境を通らずに国を出るには、南にあるアラバ山から抜けるしかない。
ただ問題がある。アラバ山には、盗賊が巣くっているという噂を聞く。
さて、どうしたものかな?
傭兵たちの帰路 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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