腹ぺこ(元)エルフのグルメ日記
鈴音
プロローグ
――暗い、樽の中。むせ返るほどの熱気と、ものが焼ける嫌な匂い。仲の良かった、みんなの悲鳴。
私はただ一人、この辛い時間が過ぎるのを待っていた。
もう、何時間経ったのか、わからない。涙はとっくに枯れた。今はただ、目を閉じて、空腹の虫を抑えるしかない。
……あぁ、お腹が空いた。森に実っていた果物は、もうすぐ食べ頃だったのに。最後に口にしたのが、ただの草の根だなんて。
次第に頭がぼぅっとしてきた。音が遠くなって、とっても眠たくなって……
そして、気づいたら、真っ暗な空間の、真ん中に一人居た。どこ、ここ。
「ああ、可哀想なエルフの娘。罪なき者に苦痛を与えるために、我が力を授けたのでは無いのに、あの愚かな勇者め……」
優しい、落ち着いた声が響いた。もしかして、神様?
「しかり。そして、苦しみのままに死せる貴女に、私は救いをもたらすためにやってきた」
救い……?
「実は、貴女達の村を襲ったのは、異なる世界よりやってきた者。奴の故郷の神が、気紛れと娯楽で送り込んできたのだ。盟友の誓いを立てた以上、彼の神の願いを突っぱねることは出来ない。
そこで、私はこの世界の魂が眠るこの地の一座を勇者に譲った。それにより、君の魂が溢れてしまったのだ」
……えと、どういうことですか?
「五人しか住めない家に客人を招くと、一人は家に入れないだろう? だいたいそんな感じだ」
はぁ……それは、わかりました。では、私の魂はここで消えるのですか……?
「否。君には、こことは別の世界に行ってもらう。その世界にも、ちょうど一席空いているからな。今その世界の神に掛け合って、新しい体を作らせている」
……なんていうか、よくわからないです。実感も、わかないです。
「今はそれでいい。まずはここでゆっくり休んで、向こうの世界でのんびり暮らせ。なに、他の者達のことは気にしないで良い。神々によって手厚く心をケアし、望むものには新たな生を与えることになっているからな」
それなら……よかった。あの、神様。私の妹、メムはきっと、私がいないととても寂しがると思います。だから、優しくしてあげてください。
「うむ。承った。では、エルフのラムよ、人の体を得て、楽しく暮らすといい。……そうだ、最後に。君の記憶はどうする?」
記憶、ですか。
「あぁ、望むなら、消すことも出来る。何も覚えていない、一人の人間になれるが、どうしたい?」
……私は、私は、そのままがいいです。
「そうか。では、改めて。……達者でな」
はい!
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